『いだてん』には1964年の東京オリンピックというゴールがあった。だが、『おかえりモネ』のゴール、2021年の「現在」はまだ揺れ動いている。それが「今」を描くことのリスクである。

 この物語の最終回が放送される予定の日、僕たちは「一時はどうなるかと思ったけど、大きな山は越えて、もう一度社会を立て直していかないとね」と思いながらこのドラマを見ることができるだろうか。それとも「朝の連続テレビ小説など放送している時ではない」と思いながら、息を殺すようにしてマスクをして報道特別番組を見ているのだろうか。

 2021年10月29日、安達奈緒子が2021年に向けて書いた脚本と、僕たちの現実は「答え合わせ」の瞬間を迎える。その時、長い旅を終えたフィクションの中の主人公を「おかえり」と視聴者が微笑みで迎えることができる社会であることを、今は祈りたい。

2021.08.15(日)
文=CDB