傍らにあるだけで嬉しくて、使い続けてますます愛おしくなる物がある。

 日々の暮らしを豊かにする物はきっと、志ある人の手によって生み出されるのだ。

 今、新たなムーブメントが起きている、岡山の新しい作り手9人に注目。今回は使う人の立場に立った物作りを大切にする陶芸家・伊藤 環さんを紹介する。


新しい暮らしによって生まれた味わい

◆伊藤 環(いとう・かん)
[陶芸家]

 「福岡の人間は、一度関門海峡を渡って、そのまま帰れば敗北、と思ってますからね」と笑う伊藤環さんは大阪で学生時代を過ごし、京都、信楽で修業した。

 一旦は福岡の父の窯に戻ったものの、神奈川での開窯を経て岡山に辿り着いた。父の窯元では売店で販売も担当。接客で得た生の声は現在の作陶にも生かされ、つくづく貴重だったと振り返る。

 スタイリストやショップとのコラボレーションの際に、使う人の立場に立った物作りを大切にしているのも、そんな経験があったからだ。

 2013年からはオリジナルプロダクトブランド「1+0」を立ち上げ、制作の幅も広げている。

 引っ越して9年目。この場所のどこが気に入っているのかを訊ねると「さっき風景に溶け込むようなおばあちゃんたちが見えたでしょう。あの感じがいいんですよ」。

 作品は初期の薄く切れるような緊張感が薄れ、人に寄り添うような滋味を醸し出すようになった。この地での日々は、彼の手を変えてきたようだ。

伊藤 環(いとう・かん)

1971年福岡県朝倉市生まれ。大阪の芸術系大学で陶芸を学び、24歳で父 橘日東士の元にて作陶。その後、神奈川県三浦半島にて独立開窯。40歳で岡山に移住。

伊藤さんの展示会

展示会はウェブサイトで告知。
http://itokan.com/

Feature

暮らしを潤す逸品
岡山の新しき作り手たち

Text=Akiko Hino
Photograph=Masahiro Shimazaki