日本を代表するプロダクトデザイナーでとあると同時に「日本民藝館」館長を務める深澤直人さん。
人の暮らしに寄り添うデザインを追求し続けるエキスパートに、物作りや工業デザインの今、手仕事に出合う楽しさを、日本民藝館の所蔵品や自身のコレクションをご披露いただきながら伺う。
深澤直人(ふかさわ なおと)
世界のブランドや日本企業のデザインを多数手がけ、国内外のデザイン受賞歴多数。2007年Royal Designer for Indu stry (英国王室芸術協会)称号授与ほか。2012年より日本民藝館館長。
人の暮らしに寄り添う、懐かしい物作りを求めて
繊細にして柔軟な素材の力強さを感じさせるあけび蔓の手編みの脱衣籠。
ざらりとした石とふくよかな形が重さを具現する中国の分銅。
家の安泰を願い家人が手作りしたと思わせる愛嬌のある狛犬。
時代、出所、素材も様々な、深澤直人さんが大切にする手仕事の品々は、どれも手にする人を温かな気持ちにさせる。
「フレンドリーで手作り感のあるものが好きなんです。チャーミングな心地よい形を集める。僕はカタチフェチなので」
ミニマル、シンプルに徹し、暮らしに溶け込み、人に寄り添うデザインが絶大な支持を得るプロダクトデザイナーの深澤さんが、日本民藝館の館長を引き受けたのは2012年のこと。
庶民の実用の道具の中に美しさを見出し、民藝(民衆的工藝)と命名した柳宗悦が、工芸品の調査蒐集と共に新たな価値を各地に伝え、日本の手仕事に多大な影響を与えた。
その核となる東京・駒場の日本民藝館は1万7千点もの工芸品を所蔵する。収蔵庫に入り、初めてその一部を目にした深澤さんは、すべてから愛着、愛らしさのようなものを感じたという。
「愛情がこもり、形も可愛い。それは、誰もが認める普遍です。日本の美学として、雅、美しいが朽ちていく侘・寂がよく語られるが、民藝はそれを他所に、奇をてらわずに生まれたもので、逆に人が肩肘張らずに日常で使えている。
そのなかに無我な、健全な美があると気づき、みんなが継承したと思うのです」
民藝との最初の出合いは、若き深澤さんが片道切符でアメリカに渡る前。
訪れた日本民藝館で、柳宗悦が書き残した民藝の趣意に出合う。そこに書かれた「民藝」は、そのまま「デザイン」に置き換えられると気づいたと語る。
アメリカでの先端デザインに浸る7年半の間、この柳の文章を机の前に貼って過ごした。
「デザイナーになってからの10年は、いわゆる格好いいモノとはどんなものかと問い続けていた。が、近代の工業製品は機能が発展するとそのカタチ自体が意味を失う。
格好いいモノを作っても、機能が変われば形も変えなくてはならない。そういうデザインをすることに気持ちがシラけてしまって」
Text=Chiyo Sagae
Photographs=Atsushi Hashimoto