文化や習慣を超えて伝播する“懐かしい”道具は温かく、愛らしい

 モノは買って一番新しいときが良いのではない、その先にある。工業製品もそう考えないといけない時代、と深澤さん。

 近年深澤さんが取り組むデザインには、耐久性を備える新素材和紙の、逆説的ともいえるそのシワを生かし、風合いのある日用品に落とし込んだ SIWAシリーズ。

 アメリカ海軍の椅子として歴史の長いアルミスツールの、今も手作業の溶接による不均一性に注目したemecoの新作。

 水を飲むという人の基本行為を新たに見つめ直し、ひたすら掌の中のコップの柔らかな曲線を追求したTGのテーブルウエアなど、どれも現代の技術をあますところなく発揮させながら、どこか懐かしい親しみを覚えるデザインだ。

「懐かしさはひとつの美学です。知っていたものにだけでなく、まだ知らないものにも人は懐かしさを感じるそうです」

 長い間人が慈しんできたもの、共有遺産のようなものを人のセンサーはキャッチする。

 文化や習慣を超えて伝播する“懐かしい”道具はきっと温かく、愛らしい。そんな風に慈しむ道具に会いに行きたい。

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Text=Chiyo Sagae
Photographs=Atsushi Hashimoto