●自分がやれないと思っても、やるしかない状況
 

――そして、中3の部活引退後、本格的に活動を始め、初めて受けたオーディションが『MOTHER マザー』だったということですか?

 1カ月ぐらい自己紹介とかの基礎レッスンを受けた後に、初めて受けたオーディションが『MOTHER マザー』でした。

 演技の経験はまったくないので、「お芝居とは何か?」も分かってない状態でしたが、橋の上で話しているシーンをやってみて、終わったときは「自分なりには、ちゃんとできた」と思いました。

――長澤まさみさん演じる自由奔放な母親を持つ周平役に抜擢され、「本当に自分でいいのかな?」と思ったそうですね。

 撮影1カ月前から大森立嗣監督のワークショップに行ったんですが、そこでも自然にセリフを言うような当たり前のことができなくて。撮影の日が来るのが怖くてしょうがなかったです。

 現場に行っても、その感覚が続いていたんですが、自分がやれないと思っても、やるしかない状況でした。

 でも、あるとき、「こうすればいいのかも?」と思い始めて、それを機にちょっとずつ楽しくなったんです。

――とはいえ、幼少時代を演じる子役がいたり、いろいろなバックグラウンドを考えなければならなかったり、難しい役どころですよね。

 最初は、幼少の頃の周平のシーンを何度か現場見学させてもらったりしながら、周平の気持ちを引き継いで演じようと思っていたんです。

 でも、大森監督から「いちばんは自分の感情」と言われたので、ある程度の背景を理解しながらも、なるべく余計なことを考えないようにして、自分の気持ちに素直に演じるよう心掛けました。

2020.06.26(金)
文=くれい響
撮影=佐藤 亘