感染を「気にする人」と「気にしない人」の差が激しい

 公立学校も閉鎖されて、3月23日(月)からリモート授業が開始した。

 多くの授業がオンラインで行われ、家庭にパソコンなどのデバイスがない生徒のためにタブレットの貸与がされている。

 しかしながら現実には300万台必要とされるデバイスがすぐに用意できるわけではなく、貧困層の児童や、シェルターなどに住んでいると推定される11万4,000人の子どもたちが取り残されたままだ。

 地域によっては、まだ紙のプリントで授業内容を配布している学校もある。

 実際にリモート授業が始まってみると、細かく時間割が組まれた授業が行われ、各自学習を進める。だが、それに伴って親の負担がかなりのものであることが判明して、困惑している家庭も多い。

 各教科につき、オンラインで使う教材や膨大な情報が送付され、その処理が追いつかなかったり、動画を見なくてはいけないような予習や、あるいは宿題が多かったりして、親が手伝わなければいけない面も大きい。

 大学生は早く訪れたスプリングブレイク(春休み)を満喫する者も多く、つい先日、マイアミのビーチに繰り出す若者たちが、「自分たちはコロナにかかっても心配ないから」とパーティーをする姿がニュースに流れると、その無責任さに、多くの人々の怒りを買った。※後日、ある若者はSNSで反省のコメントを発表

 ニューヨーク市でも3月22日(日)に、多くの人が公園に出かけ、クオモ州知事が「間違っている」と怒りを表明したほどだ。

 それほど年齢や立場によって、気にする人と、まったく気にしない人たちの差が激しいのも、今回のパンデミックの特徴だろう。

 ニューヨーク市では、ソーシャル・ディスタンシングを守らない市民には、警察がついに250~500ドルの罰金を課すことになった。そこまで厳しく取り締まっている。

引退した医療従事者の復帰や 買い物代行の学生も

 医療の現場では、人口呼吸器もICUのベッドもまったく足りていないというのが現状だ。

 ニューヨーク市立エルムハースト病院では人工呼吸器が足りず、1日に13人ほどの死者が出るという、医療崩壊寸前の状態で奮闘努力が続いている。

 マンハッタンのマウント・サイナイ・ウエスト病院では、医療用防護服PPEが足りずに、ゴミ袋を代用するほどだ。

 感染者がニューヨーク州で必要とされるベッド数14万床に迫るために、多くの病院は増床し、あらたに大学の寮などを利用して4つの臨時病院が設置され、病院船も準備されている。

 市では、展示会に使われる巨大な会場、ジェイコブ・ジャヴィッツ・コンベンション・センターが臨時の病院となり、1,000床のベッドが設置された。

 また病院船「コンフォート」号がニューヨークに接岸。街を代表するセントラルパークにも、野外病院のベッドが設置された。

 増え続ける死亡者数を鑑みて、アメリカ最古のベルビュー病院は隣接して、10台の冷凍トラックとテントを使った遺体安置所も設置した。これで800~900人ほどの遺体を安置できることになる。

 新型コロナウイルス感染拡大を踏まえて、クオモ州知事は、連邦政府よりも手早い対応をつぎつぎと打ち、ロックダウンを決行。

 そのリーダーシップについてニューヨーク市民たちからは絶大な信頼が寄せられている。

 クオモ州知事が「戦時下」というように、まさにコロナウイルスとの戦いの最中にあるニューヨークだが、この危機的状況に協力を申し出る人たちも少なくない。

 また、リタイアした医師、看護師、学生などに向けて医療従事者を募集したところ、約4万人の元医療従事者がリストに登録された。6,000人のメンタルヘルスの専門家もホットラインに登録。

 一方、ファッション界では、ニューヨークを拠点とするクリスチャン・シリアーノが、現在生産を外れて縫製できる従業員がいるため、マスク作りに協力すると申し出た。続いて複数のアパレルメーカーが、医療用のマスクやガウンの生産を開始している。

 イエール大学生によるボランティアサービス「インヴィジブル・ハンズ」も始まった。外出を恐れる高齢者や障がいを抱えるひとたちのために、ボランティアが代わりに薬局や生活必需品を買って届けるというもの。約2,700人のボランティアが登録しているという。

Invisible Hands
(インヴィジブル・ハンズ)

https://www.invisiblehandsdeliver.com/

 感染者のピークは4月下旬頃になると予想されている。

 クオモ州知事は、この状況が4カ月~9カ月継続することを想定しており、事業主に対する経済的支援策も発表している。

 まったく先が見えないニューヨークのロックダウンだが、まだ数カ月の戦いが続きそうだ。

※記事の内容は2020年3月30日(月)現在のものです。

黒部エリ

ライター、作家。東京都出身。大学卒業後、「アッシー」他の流行語を生み出すなど、ライターとして情報誌から広告まで幅広く活動した後、1994年よりNY在住。ファッション、ビューティー、アートやレストラン、人物インタビューなどなど、旬な情報を発信し続けている。著書に『生にゅー! 生でリアルなニューヨーク通信』(文藝春秋)などがある。
https://erizo.exblog.jp/

2020.03.31(火)
文=黒部エリ