パニック状態の猫には
どう対応すればいい?

 パニック状態の猫は、まさに化け猫といっていいくらい、飼い主には手が付けられない様子になります。何とかしようとなだめるつもりで近づこうとする人もいると思いますが、そこはグッと我慢してください。パニックに陥っているときの猫の五感はさらに研ぎ澄まされていて、視覚、聴覚、嗅覚を駆使してパニックの状況を「最低な嫌な体験」として記憶します。その際に飼い主が近づくと、飼い主まで「嫌なもの」と結び付けてしまう危険性があります。さらに、恐怖のあまり攻撃の対象となってしまうことも。 

 猫がパニックになってしまったときは、冷静にすぐその場から離れたほうが身のためです。ですが、猫の身体に何かが絡まって危険な状態の場合は、バスタオルなどを頭からかけて、絡まっているものを取り除いてあげてください。目を隠すことで猫は落ち着きやすくなります。

 パニックと関連付けて覚えて欲しい突然の猫の攻撃行動に、「激怒症候群」があります。犬のほうが症例は多いのですが、猫でも発症することが近年、わかってきました。「特発性攻撃行動」ともいわれ、猫が何の前触れもなく、人や同居猫などに激しい攻撃をすることをいいます。まだ不明な点も多い症状ですが、脳神経系の異常が原因と考えられています。

 また、この激怒症候群は、てんかんの発作で起こる可能性も指摘されています。てんかんとは、脳内の神経細胞が電気的ショートを起こして発作が起きる病気で、猫でも100匹に1匹は見られる慢性の脳の病です。てんかん発作も、かなり激しく、初めて遭遇すると驚きますが、投薬でコントロールしてうまく付き合っていくことができます。てんかんの薬を飲みながら、23歳まで生きた猫の話も聞いたことがあるくらいです。

 パニック、激怒症候群、てんかんと、猫脳のネガティブな面について述べましたが、知識があれば、やたらに怖がらなくても済みますから、ぜひ覚えておいてください。

 ※本稿は『猫脳がわかる!』(文春新書)の一部を再編集したものです。

『猫脳がわかる!』

猫の心を知るには、猫の脳を知るべし! ベストセラー『ざんねんないきもの事典』シリーズ、『わけあって絶滅しました』の監修者としても知られる動物学者の今泉忠明さんが、解剖学、動物行動学の知見を駆使して、猫脳の謎に迫る。かわいい写真、イラストも満載!

著・今泉忠明
800円+税(文春新書)
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今泉忠明

哺乳動物学者。「ねこの博物館」館長。1944年東京生まれ。東京水産大学(現・東京海洋大学)卒業。国立科学博物館で哺乳類の分類学、生態学を学ぶ。文部省(現・文部科学省)の国際生物学事業計画(IBP)調査、環境庁(現・環境省)のイリオモテヤマネコの生態調査などに参加する。トウホクノウサギや二ホンカワウソの生態、行動などを調査している。上野動物園の動物解説員を経て、現在は奥多摩や富士山の自然、動物相などを調査している。『おもしろい! 進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(高橋書店)など著書・監修多数。