観客も作品を構成する一員
複数の透明パネルが並ぶ、奥行きのある空間に、人物像が表れ、楽器を奏でたり、踊ったりする《秩序がなくともピースは成り立つ》。
各自の動きは自律しているが、だんだんとお互いに影響しあい、演じる音のリズムも合っていく。また観客の動きに反応して歩みを止めたり、歩き出して他の作品に移動したりする。
パリでの展覧会が初公開となった《Impermanent Life, 人が時空を生み、それぞれの時空が交差する場所には新たな時空が生まれる》は、観客がこの空間に触れると、その接触部分から、一定のリズムと特定の間隔で放射状に円が生まれる。
また、観客がじっとしていると、いろいろな場所からドットが生まれ、ドットが重なる部分に、ある種のモアレのようなものが発生し、新しい模様が増殖し、みるみるうちに、空間の様相が変化する。
チームラボの作品は、コンピュータプログラムによってリアルタイムで描かれ続けており、あらかじめ記録された映像を再生しているわけではない。
そのため、観客の人数や密度、各人の振る舞いなどさまざまな要因が複合的に噛み合わされ、作品とインタラクティブに反応し、一期一会のインスタレーションが目前に展開される。
つまり、観客も作品を構成する一員であり、観客の行動によって、無限のアートシーンが生み出されるのだ。
しかし、観客によっては、ただ見ているだけで、作品に対して何らアクションを起こさない場合もあるだろう。この場合、制作者としては、積極的に参加してほしいと願うのだろうか。
「観客にどのように動いてもらうかは、あまり重要視していない。自分や他者のちょっとした振る舞いで、この世はなんとなく変わっているということが、無意識にでも伝わればいいな、と思っている」と猪子氏は語る。
観客をコントロールして、作品に変化を起こさせる意図は、ここにはないのだ。そして、この展覧会は、一人で来場しても、複数でも構わない。
「僕たちは、ある作品に対して、家族や恋人、他人など関係なく、複数人で観るということを前提につくっているが、それは、他者がいてよかったと思える空間にしたいと思っているから」
チームラボがこの展覧会で表現したのは、他者の存在を肯定的に受け止めることで成り立つ、自己と他者の境界のない世界でもあるのだろう。
《追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして超越する空間》や《Impermanent Life, 人が時空を生み、それぞれの時空が交差する場所には新たな時空が生まれる》など、チームラボの作品名称は特徴的だ。長く、解説的でもある。
「作品が出来て、最後の最後に、僕が付ける。タイトルで少しでも作品の情報を足すことができればいいなと思っている」と猪子氏。
例えば、滝が流れて花が散る《花と人、コントロールできないけれども、共に生きる -A Whole Year per Hour》という作品では、“花”と“人”という言葉を入れることで、「この空間にいる人々を含めて、作品なんだよ」ということを伝えたかったという。
「もちろん、説明が無くても、深く知らなくても、いろいろな人に楽しんでもらいたい」と、展覧会への想いを最後に語った。
作品をとりまく全ての境界をなくし、ボーダレスな世界をアートで表現する「teamLab : Au-delà des limites」展は、2018年9月9日(日)までラ・ヴィレット グランドホールにて開催。
Feature
パリを彩る日本文化の祭典
「ジャポニスム2018」
文・撮影=景山由美子