レコーディングエンジニアに創造性を求む

山口 僕は以前から、「Her0ismは音楽家の野茂英雄になる」と予言しています。ハリウッドのど真ん中で成功してくれそうだし、Jポップの経験を活かしての活躍が刺激になり、野球に喩えるならイチロー、松井秀喜というもっと保守本流なキャリアの音楽家が出ていくだろうし、ダルビッシュや田中将大みたいな日本でのキャリアを短縮してアメリカで活躍する人も出てくるでしょう。黒田博樹みたいに成功して日本に戻ってきたりと、こういう動きはJポップのクオリティアップや市場への刺激にもつながります。そうなると、クリエイターは裏方みたいな感覚はなくなるだろうし、いろんな意味で垣根がなくなっていくと思います。その流れを加速する役割を僕らは果たしたいですね。

伊藤  そうですね。LAでライティングキャンプをやるとプロデューサー(ここではトラックメーカーのこと)はもちろんですが、優秀なシンガーソングライターたちがトップライナー(メロディメーカー)として参加してくるんですよ。彼らは自分たちもアーティストとして活動している傍ら、作曲家としてライティングに参加する。当然、日本のデモ音源制作における“仮歌さん”なんかとはレベルが違くって、次のブルーノ・マーズやシーア、メーガン・トレイナーがライティングに参加しているんですよ。彼らはライティングでも虎視眈々とスターへのチャンスを掴もうとしているんです。

山口 作曲家経由でスターになるアーティストが出てくることは間違いないですね。古くは大沢誉志幸さんとか、日本でも例がないわけではないのですが、近年は垣根ができていた気がします。

伊藤 そうですね。でも海外をみていると、この流れは日本にも来るだろうし、作曲家からアーティストで成功するパターンはこの1、2年で必ず起こると思います。

山口 あとは、そろそろコーライティングに、レコーディングエンジニアを巻き込みたいと思っているんですよ。日本のレコーディングエンジニアは、欧米と遜色ない高いレベルにあるのですが、良い意味でも悪い意味でも「職人」スタンスが強くて、クリエイティブには入ってこないじゃないですか?

伊藤 今の時代に職人肌では生き残れないと思います。都内の大きなスタジオも次々となくなってしまい、仕方なくインディペンデントでやっているエンジニアは多いですが、まだまだ職人気質でいればいいと思っているエンジニアが多いように感じます。クリエイター同様に、もっと視野を広く持ってほしいです。

山口 僕自身は「レコーディングエンジニアを宮大工にしない」というのが大きなテーマです。一流のエンジニアのスキルは、放っておいても宮大工みたいな存在としては残ると思うんですが、そんな特殊な存在になるのではなくて、普通のポップスを作るのに高いスキルを貢献させてほしいです。拙著『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていること』〈外部サイト〉でもインタビューした天才エンジニア、松本靖雄さんも興味を持ってくれているので、コーライティングムーブメントを拡げるためにも「レコーディングエンジニアのコーライター化」は取り組んでいきたいです。

 そもそも今活躍するサウンドプロデューサーって、7割くらいはレコーディングエンジニアが育ててくれたようなものなんですよ。

伊藤 データだけメールで受け取って誰の立ち合いもなしにミックスして終了、しかも単価が3分の1に下がった分、数を3倍こなすようになってはクオリティが落ちるのは当然。作曲がDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)の進化で孤独な作業化したのと、エンジニアも一緒なんですよ。エンジニアも孤独死しないようにコーライティングムーブメントに乗ってチームに参加してほしいですね。

2017.01.14(土)
文=山口哲一、伊藤涼