偉大なる地球の営みを間近に感じる原始の島

フィリクーディ島最大の繁華街ポルト(港界隈)には、夏季のみ営業するバール、食材店など数軒が並ぶ。写真は、唯一年間通して営業している老舗商店「ア・プティア」。

 フィリクーディ島は、面積約10平方キロメートルの小さな島。たまたま海底から隆起した火山の一部が海から顔を出したような小高い山の島で、港のある南斜面に、四角いエオリア様式の家々が点在しています。

左:島内の移動はモトリーノが便利。レンタル料は、1日25~35ユーロ(交渉次第で変動)。
右:島内は坂と階段ばかり。いくつかの集落を結ぶ舗装道に車やモトリーノを駐車し、各家までは徒歩移動だ。

 開放的なテラスがあり、いかにもバカンス仕様のエオリア様式の家々は、生活の知恵から生み出された建築スタイル。四角い屋根には実は傾斜があり、雨水を地下の貯水槽に送る仕組みになっています。現在は、ナポリから給水タンカーで水が届けられていますが、給水ラインから外れた家では、今でも雨水を生活用水にしています。

 この島に電気が通ったのは、驚くなかれ1986年のこと。以来、電気モーターが普及し、貯水槽からくみ上げた水が、蛇口をひねれば出るようになりましたが、それまでは、バケツで引き上げるのが日常風景でした。人々がミラーボールの下で踊っていた狂乱の1980年代に、ようやく夜の明るさと水道の便利さを知ったフィリクーディ島。それからの30年でどれだけ発展したかといえば……ほとんど変わりありません!

山上から見下ろしたポルト。山の斜面のストライプは、石段組みの段々畑。水平線にはサリーナ島が見える。

 この島でのバカンスは、まずは時計を外すところから始まります。島の時間は、細かく分けても朝か昼か夕方か夜しかないから、必要ないわけです。島の人々との待ち合わせはとても難しく、「会えたらいいね」と約束します(笑)。鶏の声で目覚め、海へ行き、木陰で昼寝したら、夕日を眺めてアペリティーヴォ。わずかな灯りで夕食をとった後は、静寂の夜にお休みなさい。毎日、島ではこれ以外にすることがありません。

もう一つの繁華なエリア、ぺコリーニ・マーレ。段々畑では、オリーブやケッパー、イチジクを栽培。向こうの島影は、ロバが荷物運びをするアリクーディ島。

 電気は通っているとはいえ街灯はなく、夜道は月明かりが頼り。月が出ない夜は、懐中電灯がなければ歩けない漆黒の闇に覆われます。見上げれば、満天の星空。力強いあの瞬きは、いったい何万光年前のものだろう? 早朝の空に広がる柔らかいピンクとブルー、稜線を染めるオレンジの夕日。きらめく透明な海をやさしく囲む湾のカーブ。

 あり余る時間に、ただただ風景を眺めていると気づきます。地球は何と美しく、そして人間とはなんと儚く小さなものなのでしょう!

エオリア様式の家のテラスは、ダイニングも兼ねる。夕暮れの地球の姿を眺める贅沢な時間。

 ネットが繋がりにくいので、必要不可欠な用事以外にスマホの画面をのぞきこむこともなくなると、もしかしたら頭はいらない情報でいっぱいなのかもしれない、と気付かされます。脳と心に空いたスペースで、偉大な地球の営みに想いをめぐらせ、インナーネット。「自分を取り戻す場所」と誰かが言い、「不便過ぎても生きられる自分の力を再確認している」と誰かがつぶやく。島での会話は、なんだかフワフワしています。

左:島での滞在は、主に別荘か貸別荘なので、食生活は自炊が基本となる。魚屋さんはなく、魚介は神出鬼没の漁師サムエルさんから直接購入。食材集めにひと苦労するのも非日常的な面白さだが、短い滞在ならホテルが無難。
右:常連客が夕方集う、コリー二・マーレの老舗バールのひとつ。

 しかし、そんな生産性のない時間をゆったりと過ごすことこそが、イタリア人の愛するバカンスの醍醐味でもあります。何もないけど、何もないがある。幻想の島フィリクーディで、地球を感じ自分をリセットする。いつの日か機会があれば、そんなバカンスをぜひ!

<フィリクーディ島へのアクセス>
Ustica Line

http://www.libertylines.it/

<フィリクーディ島の別荘レンタル>
Soprano Villas

http://www.sopranovillas.com/

岩田デノーラ砂和子
2001年よりイタリア在住。約10年間のローマ生活を経て、現在は憧れだったシチリアの州都パレルモ在住。イタリア専門コーディネート・通訳チームBuonprogetto主宰。イタリア関連著書多数。近著『おしゃべりのイタリア語』が絶賛発売中。イケメン犬「ボン先輩」と、やらかし系イタリア人の夫「ピンキー」との日々を綴る人気ブログ:ローマの平日シチリア便りもほぼ毎日更新中。

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文・撮影=岩田デノーラ砂和子