ムーブメントを巻き起こす「9X世代」

街中に残る古いアパートのひとつ。入口ではおばちゃんたちが談笑する。

 ベトナムといえば、天秤棒をかついだおばちゃんたちが行き交い、シクロが街を走る……、そんな古き良きアジアの風景を想像しがちですが、ホーチミンやハノイの都市部では今風の洋服に身を包む人が増え、おしゃれなお店も急増しています。

 それらのトレンドを牽引するのは1990年代生まれの若者たち。インターネットや最新機器を難なく扱い海外情報にも精通。伝統や習慣にとらわれることなく自由な感性で生きる彼らは「9X(チンイクス)」世代と呼ばれ、独自のスタイルで新たなムーブメントを創造しています。

古ぼけた壁が味わい深い。

 たとえば、彼らが創るブティックやカフェは、日本にあってもおかしくないほどのオシャレっぷり。むしろ、フランス領時代から続く西洋文化がミックスされたベトナムの土壌を生かし、なかなか日本では創れないような空間もそこかしこに見ることができます。

薄暗い廊下の奥にひっそりと扉を開く隠れ家ショップ。

 そんな9X世代の牙城とも呼べるのが、市内各所に残る古いアパートです。

 なかには100年以上の歴史をもつものもあり、外観や内部は“超”がつくほどのローカル感があふれていますが、一般住宅に混ざって各フロアには小さなショップやカフェが点在。ただの住居だったボロボロの1室を改装することで、初期費用を可能な限りおさえながらも居心地の良い空間を作りだし、自らの感性を存分に発揮した個性あふれるサービスを提供しているのです。

 そして、これらの古アパートは今や地方から旅行にやってきた若者がこぞってアパート巡りをするほどの人気で、今のベトナムを代表する街歩きスポットとなっています。

扉をあけると、そこは現地の若者で賑わうカフェ。

文・撮影=杉田憲昭