プラハに行ったら必見! 「キュビズム」めぐり

 チェコにしかない建築様式のひとつにキュビズム様式があります。その特異な建築を生み出す中心的な役割を果たしたのが、1887年にプラハで発足した建築協会「The Manes Association of Fine Artists」。初期の協会設立から携わっていたのが、チェコ建築界の重鎮ヤン・コチェラ。ヨーロッパに新しい建築様式を構築したいとアバンギャルドな思想を持った建築家たちが彼のもとに集結しました。後に活躍するヨゼフ・ゴチャールやヨゼフ・ホホルなど、キュビズム様式やロンド・キュビズム様式の巨匠たちが、師であるヤン・コチェラの指導のもとでプラハの新しい建物の構想を練り、次々とキュビズム様式の建築物をチェコの地に造り出していったのです。

当時協会本部として使用されていた、MÁNESの建物の現代的な外観。

 協会発足後は、ブルタヴァ川沿いにあるMÁNES(マーネス)が協会本部として使用されており、現在ではギャラリー兼カフェとして使用されています。

 プラハ市内にある有名なキュビズム建築といえば、「黒い聖母マリアの家」。旧市街広場から真っ直ぐ延びるツェレトナー通りとオヴォツニー・トゥルフ通りの角に位置しています。建物の1階に取り付けられた金格子の内部には、当時のオーナーが注文したという黒い聖母マリア像が安置されており、そこから「黒い聖母マリアの家」という名称がつけられました。

キュビズム建築らしい外観の「黒い聖母マリアの家」。

 1911年から1912年にかけて、このキュビズム様式の代表格ともいえる建物を設計したのは、ヨゼフ・ゴチャール。彼はキュビズムの建築家のなかでも抜きん出た才能とセンスに恵まれ、プラハ市内はもちろん、チェコ国内にも多くのキュビズム建築を残した建築家のひとりです。当時まだ建築としてのキュビズムの定理が構築されていなかったため、さまざまな試行錯誤を繰り返した末に黒い聖母マリアの家を生み出したと言われています。しかし、古典的な建築様式が受け継がれてきた当時のヨーロッパにおいて、当初斬新なキュビズム様式は決して万人に受け入れられたわけではありませんでした。

 現在は、この建物の2階には「グランド・カフェ・オリエント」というキュビズム様式でデザインされたカフェが入っています。インテリアも細部に至るまでこだわりがいっぱいで、お茶をしながらキュビズム建築の真髄を見ることができます。薄緑色の家具とキュビズム様式のシャンデリア、カフェへあがる螺旋階段も見ものです。

キュビズム満開、グランド・カフェ・オリエントのインテリア。
1階の入り口からカフェへとあがる螺旋階段。

 メニューもチェコらしいメニューが充実。スウィーツをはじめ、チェコ名物のソーセージ、サンドイッチ類など軽食をとることもできます。晴れた日にはカフェのバルコニー席が開放され、プラハらしいひと時を過ごせますのでお勧めです。

文・撮影=クレメントゆみ子