尖沙咀の中心部、レストランが密集するアシュレー・ロードに週末の午後だけ開くガラス食器の店、「米米」がある。数点の骨董家具の他は、1960~80年代中心に上海で作られたガラス製品ばかりを扱っていて評判の店だ。

眼にも鮮やかな色とりどりの上海ガラス製品。

 香港指折りの一等地で廉価な大量生産の上海ガラスを売る、それだけでも珍しい存在だが最も驚くのはそのガラス製品(グラス、ティーカップ、皿等)の種類の豊富さと状態の良さだろう。「今では上海でもここまで揃った店は無い、何故なら僕とパートナーが買い占めてしまったから」とオーナーの一人、鄭さんは笑う。元々そこには商売気など無く、香港人である彼が、上海在住時代に古いガラスの魅力に強くひかれ、自分の足で数年間かけてこつこつ集め、現在に至るのだそうだ。

左:擦り模様の椰子の樹が涼し気な水差し。
右:ミルクガラスを型押ししたティーカップ。

 当時上海で作られたガラス製品は食器や花瓶、灰皿だけでなく、石鹸、砂糖、飴等を入れるケースが多い。まだプラスチックが普及していない時代、入れ物の多くは重いガラスで作られていたのだった。

群青色が美しい一輪挿し。長年受け継がれた典型的なデザイン。

文・撮影=久米美由紀