観光では見ることができないカッパドキアの生活風景も
もうひとつの見どころは、カッパドキアの風景の美しさ。観光地として有名な地方ですが、この映画では、地元の人々の生活感の方がより前面に出ています。奇岩で有名な風景のなかで、ふつうに学校に行く子供たちや、厳しい冬をなんとか乗り越えようとする人々の日常。そこには観光ツアーでは決して見ることのできない実際の生活があり、その小さなディテールひとつひとつが美しく描写されています。このあたり、写真も専門としているジェイラン監督だからこそ出せる芸術性といえそうです。
日本では、トルコ映画の認知度はまだそれほど高くないようですが、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督は、カンヌやベルリン映画祭の常連であり、とりわけカンヌでの受賞は今回が5度目の、いわば名匠。今回の『ウィンター・スリープ』は、初のパルム・ドール獲得に加えて、FIPRESCI・国際映画批評家連盟賞も受賞するほど、高い評価を受けています。尊敬する映画監督に小津安二郎を挙げるジェイラン監督。どこか、日本映画に通じる美しさを感じるのは、そのためなのかもしれません。ちなみに日本では、2015年公開予定です。
安尾 亜紀 (やすお あき)
イスタンブール在住。イスタンブール大学大学院女性学研究所卒。女性誌や料理誌、報道関係まで幅広い分野でライター・コーディネーターを担当。トルコの「おいしい・楽しい・新しい」を中心に、All Aboutトルコ・イスタンブールでも情報発信中。
文=安尾亜紀