美容は手っ取り早く達成感を得られる
――昔のまんきつさんは、自分の受けた傷全部を描くような漫画家というイメージでした。その頃と比べると、『美容バカ』は「ここまでは描くけど、ここからは描かない」という線引きをきっちりしているような印象です。
まんきつ 我ながら、昔の作風は痛々しいですよね。読む人をすごく選ぶ作風だったと思います。柳川さんのおかげで、『美容バカ』はいろんな人に手にとっていただける感じになっているんじゃないかなと。
――ご自身で何か心境の変化のようなことはあったのでしょうか?
まんきつ 『湯遊ワンダーランド』が終わった後くらいから、ほんの少し生きやすくなったんですよね。サウナが良かったのか、カウセリングに通ったのが良かったのか、実家と距離を置いたのが良かったのか、単に年齢を重ねたからか……。はっきりとした理由はわかりませんが、ずっと「いつ死んでもいい」と思っていたのが、ある時から急に楽になりました。
――『湯遊ワンダーランド』が完結した頃、「『作者が幸せになると作品がつまらなくなる』と言われるけど、作者本人が楽しい、幸せと思いながら漫画を描くほうが作品は絶対良くなる」とインタビューで話していましたよね。それは今も同じ考えでしょうか?
まんきつ それはちょっと難しいところで、少々イヤなことがあったほうが「描くぞ!」という気持ちにはなれるんですよね。「この野郎!」という勢いで作業に向かえるというか(笑)。あまり落ち込みすぎると漫画どころじゃないので、ネタになる程度にイヤなことがたまに起こるくらいがちょうどいいですね。
――世のエッセイ漫画家の本音ですね(笑)。美容はセルフケア、自己肯定感の文脈で語られることも多いですよね。
まんきつ 美容は毎日ルーティンで行うことなので、そういう意味では心のバロメーターになりますよね。本当にダメなときって、窓を開けることすらできなくなりますから。あと美容って、やったら必ず返ってくるんですよ。漫画は1本描くのに1か月、2か月かかりますし、どんな反応が返ってくるかすぐにはわからない。でも美容って1週間程度でリターンがあるので、手っ取り早く達成感が得られるんですよね。
2024.06.23(日)
文=原田イチボ@HEW