寝たり、前かがみになると改善

 耳管開放症かどうかを自分で判断する方法はあるのでしょうか。

「『あれっ。今、耳が変だな』と思ったとき、寝ころがったり、前かがみになってみてください。それで症状が軽くなった場合は、耳管開放症の疑いがあるといえます。耳管は立った姿勢のときは開きやすく、寝たり前かがみになった姿勢では閉じやすくなるのです」

 耳鼻科でも、耳管開放症の検査では、立ち姿勢と寝た姿勢で症状がどのように変わるのかを調べて、診断の目安にします。

「症状がなかなか消えない場合、雨の降りはじめや、台風が接近している時などに症状が強くなる場合は、メニエール病や耳管狭窄症、中耳炎など、ほかの病気も考えられますから、耳鼻科を受診してください。耳管開放症の主な治療としては、生理食塩水の点鼻や漢方薬の加味帰脾湯の服用などの方法があります。それでも治らない場合は、耳管周囲への脂肪の注入やシリコン製のピンの挿入など外科的な治療を行ないます」

無意識の「鼻すすり」に注意!

 風邪や花粉症で鼻が出そうになったとき、ついやってしまう、「鼻すすり」。 実はこれ、耳管開放症を悪化させる要因なんです。
「鼻をすすると、中耳から空気が抜けて耳管が閉じるので、一時的に症状が抑えられ、聞こえもよくなります。このため、耳管開放症の人は、無意識に鼻をすする癖がついてしまうのですが、絶対にやめてください」

 鼻をすすると、鼓膜が内側に引っぱられてへこみます。これを繰り返すうちに鼓膜がのびてきて、中耳の内側にくっつき、中耳炎を併発することがあるとか。

 また、鼓膜のくぼみに耳アカがたまり続けると、真珠のようなできもの(真珠腫)ができて「真珠腫性中耳炎」になる恐れも。なんだかキレイな名前ですが、真珠腫は大きくなると、顔の神経を圧迫して顔面神経マヒを起こしたり、まれに脳まで到達して脳膜炎を発症するケースもあるそうです。

 ほかに日常生活で気をつけておくことは?

「飛行機に乗ることは神経質になる必要はありません。プールも飛び込みや深海までのダイビングでなければ問題無いでしょう。ただし、激しい運動やサウナや発汗によって体が脱水状態になるので、水分の補給に気をつけてください」

 妊娠中や避妊ピルで発症することも

 ストレスや過剰なダイエットのほかに、「妊娠」をきっかけに耳管開放症になる人もいます。持病を公表したモデルも、「妊娠してから、とくに症状がひどくなった気がする」とブログに記しています。

「じつは妊娠中の女性は、耳管開放症を発症しやすい傾向にあります。米国のある病院で行われた調査によれば、妊婦さんの5人に1人が耳管開放症を発症していたそうです。正確なしくみは突き止められていませんが、出産に備えて筋肉をゆるめるホルモンが多量に分泌された結果、耳管の周囲にある筋肉もゆるみ、開きやすくなるのではと考えられています」

 また、これも海外の調査ですが、15人の耳管開放症患者のうち、7人が避妊ピル(経口避妊薬)を服用していたとの結果がでています。避妊ピルのホルモン分泌のバランスを乱す作用が原因と見られています。

「妊娠や避妊ピルの服用による耳管開放症は、出産後や、薬の服用をやめたらほとんどの人が自然治癒します。ただ、ごくまれに症状が長引くこともあります。耳がつまった感じや、自分の声が頭に響く症状が治らないなら、耳鼻科の受診をおすすめします」

お話をうかがったのは……大場俊彦先生 (慶友銀座クリニック院長)
医学博士。慶応義塾大学病院、国立小児病院、東京都済生会中央病院などを経て、2005年に開業。20~30代の働く女性の患者が多く、仕事やライフスタイルに合わせた医療を提供している。得意分野はアレルギー治療といびき治療。二児の父親。
URL http://www.ginzaclinic.com/index.html

2014.03.03(月)
文=中津川詔子
写真=vita khorzhevska / Shutterstock.com