そして麗子もやはり一人の表現者として生きた

 劉生が没したことで《麗子像》の時が止まってしまうのが、麗子15歳の時。彼女は父の死を契機に筆を執って絵を描き始め、また父の旧友であった武者小路実篤に私淑して、「新しき村」の演劇部に入り、役者として舞台に立った。そして家庭を持ち、母となった後も、戯曲や小説、劉生の日記をつぶさに読み返して書き上げた評伝などを発表、48歳で亡くなるまで、やはり一人の表現者として生きた。

岸田麗子「1923年8月の思出」 1958(昭和33)年6月11日 個人蔵

 これまで《麗子像》ばかりが知られてきた岸田家の、祖父、息子、孫娘3代が、相互にどのような影響を与え合い、それぞれの存在を受け容れてきたのか。幕末から明治、大正、昭和と近代日本を生きながら、どのように自らの表現を作り上げていったのか──を、高橋由一や小林清親ら関係の深かった作家たちの作品、3人の作品や写真、刊行物や日記などによって紹介する。

左:小林清親「桃花散・百発百中膏・精錡水 引札」 制作年不詳 内藤記念くすり博物館蔵
右:高橋由一「吟香小照」(「上海日誌」所収) 1867(慶応3)年 東京藝術大学蔵

岸田吟香・劉生・麗子 知られざる精神の系譜
URL http://www.setagayaartmuseum.or.jp/
会場 世田谷美術館
会 期 2月8日(土)~4月6日(日)
休館日 月曜日
入場料 一般1,200円ほか
問い合わせ先 03-5777-8600(ハローダイヤル)

橋本麻里

橋本麻里 (はしもと まり)
日本美術を主な領域とするライター、エディター。明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。近著に幻冬舎新書『日本の国宝100』。共著に『恋する春画』(とんぼの本、新潮社)。

Column

橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」

古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。

2014.03.01(土)
文=橋本麻里