「夫 カミングアウト」で検索しまくりました(笑)
 

 ryuchellさんから2021年の年末にカミングアウトを受け、翌年8月にSNSで公表するまで、家族のあり方やアナウンスの仕方についてコミュニケーションを重ねた。その結果、婚姻関係の解消後も家族3人でこれまで通りの生活を続ける決断をする。

 最初はどうしていいかわからなくて、それこそ「夫 カミングアウト」で検索しまくりました(笑)。でも、どんなにネットの中を探したところで、うちと全く同じ例は出てこないんですよね。これはもう、自分たちで新しい家族関係を考えていくしかないんだと思いました。

 「新しい家族の形」を発表した後、「早く新しい恋人を見つけて幸せになってほしい」という言葉をよくかけてもらいます。本当にありがたいなと思うんですけど、私の中でそれは選択肢としてないというか、子どもがいる今、自分の欲求だけで離婚したり別居したりするのは、親として責任に欠ける行動ではないかと思っているんです。あくまで私の考えですが。

 その気持ちは、ryuchellに対しても同じでした。ryuchellが男性を好きだったことは驚いたけど、受け入れられる。でも、たとえば恋愛したいがために家庭を捨てるようなことは違うんじゃないかと。パートナーである私はryuchellの変化を受け入れて、恋愛関係ではなくなることも理解した。なら、わざわざ別れを選択して子どもを悲しませる必要はないのでは? という気持ちだったんです。

 ただ、ryuchellは恋愛がしたいということではなく、「戸籍に“夫”という文字がある事実がつらい」「夫という立場を降りたい」と訴えていました。その一方で、息子の父であることには誇りが持てて、子どもと一緒にいたい気持ちも強かったんです。

 「自分が幸せじゃなきゃ子どもにも幸せを与えられない」、ryuchellはそう言いました。私はそれと真逆の考えというか、親はどんな状況であっても子どもに愛を与えるもの、というスタンスで、そこも違いがありました。そうして山あり谷ありの話し合いの結果、法的に婚姻関係の解消はするけど、息子の親として一緒に暮らす、というスタイルに行き着いたんです。

 まもなく5歳になるという息子さんはジェンダーにとらわれることなく成長しているそうで、「親バカ」かもしれないけどいい子に育っていると思います(笑)」と、pecoさんは顔をほころばせる。

2023.06.08(木)
Text=Natsumi Koizumi
Photographs=Wataru Sato

CREA 2023年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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