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ブランズタワーの低層階と高層階

──「タワマン」ネタのどこに面白さを感じたのですか?

外山 その投稿が話題になったのが、豊洲に「ブランズタワー」という不動産クラスタがざわつくタワマンができた時だったんです。豊洲とは思えない強気の価格設定なのに、1階には高級スーパーではなく庶民的なダイエーが入っているという物件で、どんどん妄想が膨らんでいったんですよね。

──どんな妄想ですか? 

外山 たとえば、ある日、ブランズタワーの低層階に住む共働きのお母さんがダイエーで買い物をしてマンションに帰ると、ロビーでばったり「フードストアあおき」という高級スーパーの袋を持っている高層階に住むお母さんに会うんです。低層階のお母さんは何となく気まずいので「こんにちは」って挨拶だけして逃げようとするんですけど、高層階のお母さんから「お買い物帰りですか? ダイエーさん、安くて美味しくていいですよね」なんて笑顔で話しかけられて、マウンティングをかまされたと思うわけです。

 追い打ちをかけるように、自分の子どもは塾で成績が伸び悩んでいるのに、高層階のお母さんから、「働きながら子どもの勉強も見て偉いわよね」と上から目線で言われ、さらに嫌な気持ちになる……。そんな話です(笑)。不動産クラスタ向けに投稿していたんですけど、拡散されてめちゃくちゃバズって「続きを書いてほしい」というリクエストも増えたので、ちょこちょこ書くようになりました。

──確かに、続きが読みたくなりますね。「妄想」がやけに具体的ですが、タワマンのご事情になぜそんなに詳しいのですか?

外山 タワマンの序列や熾烈なお受験競争のベースは、10年くらい前のテレビドラマ『名前をなくした女神』から着想を得ています。小学校受験を軸に5人のママ友の関係性を描いたドラマなんですけど、大好きでよく見ていたので、頭の中にイメージが残っていました。あと、幼稚園受験の世界を描いた桐野夏生さんの『ハピネス』という小説も好きだったので、「タワマン×受験」という妄想がしやすかったんだと思います。

──外山さんは、いまブームになっている「タワマン文学」の先駆者と言われていますよね。

外山 そう言っていただけることも多いんですが、これは僕の功績ではなく、ネットメディアの影響のほうが大きいと思っています。「タワマンを叩けばビューが取れる」と言われるように、タワマンを叩く投稿や中学受験関係の投稿って、Twitterではすごく反応がいいんですよ。

 「タワマン住み」は、頑張ったらなれたかもしれない自分で、その"中の上"セグメントになれなかった嫉妬や羨望から、「タワマン叩き」を望む人が多いのかもしれないですね。

2023.04.22(土)
文=相澤洋美