俳優として成長すること=人間として成長すること

 主演映画『怪しい彼女』(2014年公開)の大ヒットで、韓国の国民的人気女優として不動の地位を築いたシム・ウンギョン。彼女はそこに甘んじず、日本の芸能事務所とマネジメント契約を結び、日本の映画やドラマに出演するようになった。

 日本で活動をする理由を聞かれ、「経験を積むことが俳優として重要だから」と説明する。もともと日本語話者ではない彼女が日本語で芝居をする難しさは、想像に難くない。

 彼女にとって5本目の出演作となる日本映画『七人の秘書 THE MOVIE』が公開される。2020年に連続ドラマとして誕生した本作は、曲者揃いの秘書たちが暗躍して不正を正す、勧善懲悪ものだ。秘書の1人、ハッキングが得意な日韓ハーフのサランを演じる彼女に、このシリーズへの思いや、日本で活動を開始して5年が経つ、現在の心境を聞いた。

 俳優として成長すること=人間として成長すること。シンプルだが、決して簡単ではない修行のような道を歩んでいるシム・ウンギョン。それなのに悲壮感とは無縁。好奇心で瞳を輝かせながら、謙虚に、そして貪欲に、高みを目指している。「七人の秘書」の現場で、共演者たちからイジられると同時に尊敬されていたという話に深く納得した。

私にとって、初めての日本の地上波ドラマ

――シムさんは過去のインタビューで「経験を積むことが俳優として重要」と発言しています。この「七人の秘書」シリーズでは、どんな経験ができましたか?

 「七人の秘書」は、私にとって、初めての日本の地上波ドラマでした。この作品で、確実に日本の皆さんに私のことを知ってもらえたという意味で、貴重な、宝物のような作品です。作品のシリーズ化を経験したのも初めてです。

 私がこれまで出演した作品は、『怪しい彼女』のように、主人公が1人の作品が多かったんですけれども、今回は秘書を演じる役者の皆さんと一緒に作り上げた作品でした。そういう作品は『サニー 永遠の仲間たち』(2011年公開)以来だったと思います。

 最初は、ちゃんと皆さんと馴染めるのか、ちょっと心配だったんですね。自分の母国語ではない日本語のセリフのイントネーションは大丈夫かな、無事に最終話まで終えることができるのかな、といろんな不安がありました。でも、皆さんが本当に優しかったんです。ちょっとわからないことがあると教えてくださいましたし、寄り添ってくださいました。私も皆さんに「ウンギョンさん、◯◯を韓国語で言うと?」と聞かれて、教えることもありました。

 私はこの映画のメッセージを、「1人じゃなくてみんなでやればなんとかできる」と考えているのですが、この撮影現場を経験して私自身が、「皆さんと一緒なら本当に何でもなんとかできるんだ!」と、改めて思いました。

 他の役者さんも感じることだと思いますが、いつもは撮影に入ると、自分と役との孤独な闘いというか、悩みますし、寂しいなという気持ちになります。それは悪いことではなく、私にとっては当たり前のようにあることなんですけれども、寂しさよりも幸せをたくさん感じることができたのも、初めての経験でした。

――例えば、どんなときに幸せを感じましたか?

 特別な何かがあるわけではないのですが、萬さん(江口洋介)のラーメン屋でラーメンを食べるシーンを撮るときに、本当にひとつのチームになっているなと感じました。俳優業を続けてきて、「私たちは一緒なんだ」という気持ちを感じたのは、『サニー 永遠の仲間たち』以来なので、大人になってからは初めてです。

2022.10.04(火)
文=須永貴子
撮影=平松市聖
ヘアメイク=伏屋陽子(ESPER)
スタイリスト=島津由行