一枚の絵の背景に潜む、ストーリーを想像する

――日本画をご覧になるときはどんなところに着目されるのでしょうか。

 私が日本画を好きになったきっかけは、絵から当時の風俗が読み取れるところにあります。

 一枚の絵から学ぶことがたくさんあるのですが、まずはやっぱり着物の着こなしや髪型、髪飾りに目がいきます。

 例えばこの『築地明石町』。指輪を付けていて、ちょっと近代的な印象がありますね。羽裏が赤いのはわかるけれど、帯も赤いのかしら、この髪型はどうなっているんだろう……と想像したり。

 この絵の一番不思議な点は、女性が襦袢を着ていないところなんです。羽織で帯を隠しているようにも見えますし、よく見ると裸足で、おくれ毛も細かく描かれている。一体、この女性には何があったのかしら……といろいろ想像してしまいます。

――確かに。視線や表情をよくよく観察してみると、慌てているようにも、何かに追われ、逃げているようにも感じられます。ほかにも気になった作品はありましたか?

 江戸末期から明治にかけて活躍した落語家・三遊亭円朝を描いた作品が好きでした。

 それから「明治時世粧(すきや)」という作品。この絵に描かれた女性は夏の着物の「紗(しゃ)」を着ているのですが、グリーンの紗の下にアザミか何か、花の柄が入った長襦袢を重ねているんです。この花の模様が、紗を通して透けている様子がとても素敵です。

 現代では長襦袢というと無地で淡い色のものが多いのですが、この時代の女性は長襦袢にこだわっていたこともよくわかります。

――“透け感”を楽しみながらインナーである長襦袢と着物を組み合わせるなんて、まさにおしゃれ上級者ですね。いろいろな日本画を見てこられた中で、改めてユリアさんが感じた鏑木清方の魅力とはなんでしょう?

 「西の松園、東の清方」という言葉がありますが、よく清方の作品は同じ時代に活躍した美人画家の上村松園と比較されます。松園の美人画はふっくらとしたかわいらしい女性が多いのに対して、清方が描く女性は、ちょっとかっこよくて、色遣いが優しい。

 ブルー系の着物が多いのも特徴的ですね。この時代、赤の染料は高価で贅沢品だったということもあると思いますが、関西では華やかな色合いが好まれたことに対し、江戸っ子は“渋好み”だったことから、ブルーが好まれたんじゃないかなと想像することもできます。

雑誌をめくるような感覚で、ファッションやライフスタイルに触れる

――なるほど、江戸の“粋”というのでしょうか。清方自身は「美人画家」と呼ばれることには抵抗感を抱いていたそうですが、単に美しい女性を描いていたわけではなく、「暮らし」を描くことを大切にしていたんですね。一枚の絵からその時代の文化を紐解く。これも日本画の楽しみ方のひとつなんだと思いました。

 そうですね。鏑木清方からは特に、江戸や明治期のおそらく彼自身も憧れていた時代の景色を描きたい、残したいという思いも伝わってきました。描かれている花々などを通しても細やかに季節が表現されていたり、この時代の人は感性が豊かだなと感じます。

――最後に、ユリアさんが考える日本画の楽しみ方を教えていただけますか。

 楽しみ方に決まりはないと思いますが、日本画の知識がない、どんな風に見ればいいかわからないという方も、ファッション的な視点で楽しめるのが清方の作品だと思います。私も色の合わせ方や髪飾りのデザインなど、現代のファッションにも応用できることがたくさんあるなぁと思いながら、注目しています。

 ご覧になる方にはぜひ、着物にも興味を持っていただけたら嬉しいですね。

没後50年 鏑木清方展

会期 開催中~2022年5月8日(日)
会場 東京国立近代美術館(東京・竹橋)
開館時間 9:30~17:00 ※毎週金・土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
休館日 毎週月曜日 ※ただし5月2日は開館
観覧料 一般 1,800円、大学生 1,200円、高校生 700円
問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://kiyokata2022.jp/

マドモアゼル・ユリア

10代からDJ兼シンガーとして活動をスタート。着物のスタイリング、モデル、コラム執筆や着付け教室開催など、多岐にわたって活躍。2021年6月からはアメリカのスキンケアブランド"TATCHA"のカルチャーアンバサダーに就任。2022年3月からはじめたYouTubeチャンネル「ゆりあときもの」では、若い世代や着物や日本の文化に関心がある外国人に向け、日本語と英語で着物の魅力を発信している。
Instagram @MADEMOISELLE_YULIA
Twitter @MLLE_YULIA
YouTube https://www.youtube.com/user/melleyulia

2022.04.05(火)
文=河西みのり
写真=三宅史郎