庭とアートは相性がいい。それはそうだ。どちらも目で観て、五官で味わうことで人の感情を自在に操るものなのだから。
アーティストと自然が伸び伸びとコラボレーションし、また美術館と庭が見事に融合した贅沢な場所を見てみよう。
由緒正しき庭園で庭が主題の展示を観る
◆東京都庭園美術館
白亜のアール・デコ建築は芝生によく映える。
今が21世紀で、ここが東京の中心部であることを、すっかり忘れてしまいそう。
東京都庭園美術館を訪れ身を浸していると、そんな気分に襲われる。
奥深い緑が都心にいることを忘れさせる。
何しろ作品が展示されているのは、1933年竣工のアール・デコ様式のお屋敷。
旧朝香宮邸であり、戦後は吉田茂外相・首相公邸や、国賓・公賓を招く迎賓館として用いられた。その後1983年から、美術館に転用されることとなる。
奥には日本庭園もある。
建築物自体が壮大な作品ともいえる環境でアートに触れる体験は格別だ。しかも、建物を取り囲む空間もまた華麗。
2階のベランダからも見下ろせる芝庭は、一面が青々とした芝生で覆われ、ムクノキの大樹が守り神のようにそびえる。
康夏奈 《花寿波島の秘密》瀬戸内国際芸術祭 2013–2019年/山や海でのフィールドワークから得た記憶をもとに、自然をモチーフとした作品を制作。一つひとつの作品から、広大な空間のイメージが観る側の脳内に浸透する。Photo:Yasushi Ichikawa
その奥、往時は宮内省官舎があったという場に築かれているのが西洋庭園。さらには築山と池を備え、起伏に富んだ日本庭園もある。
青木美歌《Wonder》2017年/学生時代に魅せられたガラス素材を用いて、その魅力と不思議を探求し続けている。菌類、ウイルス、細胞といったミクロの世界をモチーフにしてつくられる作品世界は、生命の本来のありようを教えてくれるかのよう。Photo:Sai
この秋は、館内で開かれる企画展も、庭にまつわるものが用意されている。
加藤泉《無題》2019年/これは胎児なのか、宇宙生命体なのか。不思議な見かけの「ヒトガタ」をかたどった油彩画や彫刻がトレードマーク。本展では多様な素材を用いた作品を展開。Photo:Ringo Cheung courtesy of Perrotin ©2019 Izumi Kato
「生命の庭─8人の現代作家が見つけた小宇宙」というタイトル通り、第一線で活躍するアーティストたちが、作品を通して独自の自然観を披露してくれる。
佐々木愛《残された物語》「開港都市にいがた 水と土の芸術祭2012」 角田山妙光寺 新潟 展示風景/ロイヤルアイシングという手法を用いて砂糖で描く壁画など、様々な素材・方法を駆使して制作。同館で滞在制作した作品を中心に展示をおこなう。Photo:山本糾
庭とは自然を素材として、人為によって築かれるもの。
小林正人《画家の肖像》(部分)2019年/私たちのいる世界を「この星」と捉え、あらゆるものが関係し繫がっていることを常に意識しながら創作するのが小林の流儀。館に注ぐ光を生かした展示が展開される。Copyright the artist. courtesy of ShugoArts.
アート作品もまた、自然から発想やモチーフを得て、人の手が生み出すもの。
淺井裕介《空から大地が降ってくるぞ》WULONG LANBA ART FESTIVAL 2019年 展示風景/大小の異なる無数の動植物のモチーフが、複雑に絡み合ったり入り組んだりしながらかたちを成すのが淺井作品のありよう。大きな生態系の存在まで感じられてくる。©Yusuke Asai courtesy of the artist, WULONG LANBA FESTIVAL 2019, ANOMALY
庭とアートはよく似ている、というより、同じ営みを違う角度から眺めたものかもしれない。
志村信裕《Nostalgia, Amnesia》(Video still)2019年/主に映像を用いて創作をするが、実験的な映像からストレートなドキュメンタリーまでと、採用する方法・形式は様々。記憶や歴史に意識を向ける態度は一貫している。Courtesy of Yuka Tsuruno Gallery
そう気づかせてくれる展覧会となりそうだ。
山口啓介《花の心臓/蘭、紫の雲》2002年/版画から立体まで様々なジャンルの作品を手がける。本展では、生花と造花を使って、自然と人工の対比を考える「カセットプラント」や絵画作品を展示。Photo:高嶋清俊
東京都庭園美術館
所在地 東京都港区白金台5-21-9
電話番号 050-5541-8600
開館時間 10:00~18:00(最終入館は17:30)
休館日 第2・第4水曜日(祝日の場合翌木曜)、年末年始
料金 展覧会により異なる
https://www.teien-art-museum.ne.jp/
●企画展「生命の庭—8人の現代作家が見つけた小宇宙」
期間 2020年10月17日(土)~2021年1月12日(火)
企画展料金 1,000円
Text=Hiroyasu Yamauchi
Photographs=Takashi Shimizu