寒流と暖流が交差する澄んだ海に囲まれ、全国に名だたる米どころでもある島だけに和食への期待も高まるもの。
魚も野菜も鮮度がいいのは当たり前。食材と真摯に向き合って生まれた創意工夫と技を堪能したい。
おすすめの和食スポットを4回に渡り5軒ご紹介。
魚×野菜の食べ合わせの妙を知る、島の出合いもの
◆蕎麦 茂左衛門(そば もぜむ)
ほのぼのとした農村の中にぽつんと一軒佇む完全予約制の蕎麦懐石。戸を開ければ出汁の香りと野の花が出迎えてくれる。
店主の齋藤和郎さんは奥沢や麻布十番など東京の蕎麦店、和食、イタリアンを経験し、念願の佐渡に里帰り。
島ならではの旬魚と野菜の食べ合わせを探求し、山に自生する草花や木の実をアクセントに使うなど唯一無二の料理世界を生み出している。
例えば、ふっくら酒蒸しにした真鯛に合わせるのは、フルーティなネパール山椒と鯛のアラで炊いた蕎麦の実のリゾットで、ほろ苦いのらぼう菜やあけびの実を発酵させた酢がキリッと味を引き締める。
島伝統のぶっかけ蕎麦は、あご(飛び魚)出汁をベースに少しの鰹と干し椎茸で奥行きをプラス。鰹出汁のようなインパクトはないけれど、蕎麦とよく絡ませてたぐれば、じわりとやってくる深い旨み。
さらに鬼ぐるみをツユに加えれば、タンニンのような植物特有の心地よい雑味がさらなる旨みの深淵に誘ってくれる。
南蛮海老は天婦羅にせず春巻きで旨みを包み込むなど、モダンではあるけれど、ストンと腑に落ちる食べ合わせの妙は、郷土の味や佐渡の昔ながらの作り方をリスペクトしているからこそ。
よく知っていたはずの魚がきらめきだす瞬間、温故知新の滋味が立ち上る。
蕎麦 茂左衛門(そば もぜむ)
所在地 新潟県佐渡市新穂田野沢163-1
電話番号 0259-67-7972
営業時間 11:30~14:00、17:00~22:00
定休日 日曜
※要予約(前日昼まで)。
https://sobamozem.com/
Feature
佐渡島の恵みがじんわり沁みる
ここでしか食べられない和食
Text=Kaori Minetsuki
Photographs=Jun Hasegawa