幾多の困難を超えて美術品を守り、財を投じた先人たちの篤い想いは各地の美術館に作品とともに引き継がれ、今日も新しい物語を紡ぎ続ける。

 各地の想いを引き継ぐ美術館を7館紹介。


◆大阪市立東洋陶磁美術館|The Museum of Oriental Ceramics, Osaka

 百年、千年と時を重ねた東洋陶磁には物語がある。その美を追い求めた男にもまた、語り尽くせぬ物語がある。大阪の静かな美術館が、その一つひとつを語りかける。

三顧の礼をもって東洋陶磁を収集した男

 安宅英一は、かつて日本で十指に入るといわれた総合商社、旧安宅産業株式会社を率いた人物だ。彼にはもう一つ、世界に名だたる東洋陶磁コレクターとしての顔があった。

 彼が20数年にわたり事業の一環として収集したコレクションは、国宝2点と重要文化財12点を含む約1,000点。

 世界随一のコレクションは、安宅産業の事実上の破綻後、紆余曲折を経て住友グループ21社より大阪市に寄贈された。それを記念して1982年に設立されたのが、大阪市立東洋陶磁美術館だ。

 安宅は美術全集や展覧会図録などをひたすら眺め、古美術商に足繁く通って情報を集めた。その中からこれぞと照準を定めたものは、手に入れるまでどれほどの苦労も厭わず、「三顧の礼をもって」迎えたという。

 コレクションについてほとんど語らなかった安宅が残した一文がある。

「山に登るのは、そこに山があるからだという言葉は、古美術の蒐集にも当てはまるような気がする。(中略)やはり、そこに魅了されるものがあるからだという答えだけが、ガンとしてあり、また、勇気をふるいたたせるのである」(『美の求道者・安宅英一の眼─安宅コレクション』展図録より)

 安宅と親交の深かった作家・立原正秋は、安宅の美意識を「明晰で端正」と評した。自身の美意識と眼を信じ、その眼を魅了したものを信じて安宅が成したコレクションを、大阪の静かな美術館で堪能したい。

Information

特別展「天目―中国黒釉の美」(開催中~2020年11月8日[日])。ただし、新型コロナウイルス感染症の感染予防、拡大防止のため、会期の変更や入場規制等を行う場合あり。最新情報はホームページで。

大阪市立東洋陶磁美術館

所在地 大阪市北区中之島1-1-26
電話番号 06-6223-0055
開館時間 9:30~17:00(入館は16:30まで、喫茶サロンは10:00~17:00)
料金 1,400円
休館日 月曜(祝日の場合は翌日)、12月28日~1月4日、展示替え期間
http://www.moco.or.jp/

Feature

個性的なコレクションを収蔵
日本全国の、物語を紡ぐ美術館

Text=Yuko Harigae(Giraffe)
Cooperation=The Museum of Oriental Ceramics, Osaka

この記事の掲載号

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