左が建築設計を担当する東環境・建築研究所の東利恵さん。右が環境設計を担当するオンサイト計画設計事務所の長谷川浩己さん。

 星のやは、「現代を休む日」をコンセプトにした滞在型リゾート。ホスピタリティや料理と並ぶ星のやの魅力は、空間設計を含めた建築にある。

 一歩足を踏み入れた瞬間に気持ちが切り替わり、同時にくつろいだ気分になるのは、デザインの力によるものだ。

 それぞれが個性的でバラエティ豊かなのに、どこか通じている星のやの建築を担当するおふたりに、デザインへのこだわりをうかがった。


始まりは「星のや軽井沢」から

開業4年を迎える星のや東京もおふたりのデザインによるもの。「塔の日本旅館」をコンセプトに、建物内外にラグジュアリーな空間が広がる。

──東さんが建築設計、長谷川さんが環境設計をご担当されていると聞いています。

 環境設計というと少しわかりにくいけれど、長谷川さんのお仕事はランドスケープデザインですね。建物をデザインするのが私の役割で、景色をデザインするのが長谷川さん。そういうデザインチームです。

長谷川 本格的に一緒に仕事をするようになったのは、2005年に開業した星のや軽井沢からですね。

 それまでの星野温泉旅館を次の100年に向けてどうリニューアルするのか、根本的なところから話し合うために月に2回ほど、私と長谷川さん、そして星野(佳路)代表の3人プラス担当者で集まりました。

長谷川 軽井沢に集まると、朝から晩まで、ハードだけでなくソフトとかヴィジョンまで、なんでも話し合いました。

2005年に開業した星のや軽井沢から、星のやというブランドは始まった。「谷の集落」というコンセプトで、水の庭園を囲むように客室が並ぶ。

──話し合いのなかで、星のや 軽井沢のコンセプトはどのように固まっていったのでしょうか。

長谷川 最終的には「谷の集落」という言葉に収斂(しゅうれん)しましたが、僕の立場としては谷という地形をネガティブに考えないで、どうしたらポジティブにとらえられるかが課題でした。

 もうひとつ、水力発電を行っていたんですが、ほとんどが暗渠(あんきょ)で、水が地下を流れているのがもったいないと思ったんですね。谷という地形や水の流れ、つまり軽井沢という土地のリソースをうまく使うことを考えました。

 星野代表はワンマンで決めるタイプではなく、みんなで話し合いながら方向を決めるというやり方です。ただ、ひとつだけ心に残っている言葉があって、それは「西洋文化に媚びないでほしい」というものでした。

 こうして段々と、その土地が持っている文化を大事にするという、その後の星野リゾートの施設すべてに通じる方向が定まっていったように記憶しています。

長谷川 軽井沢に関しては、駐車場を離れた場所に持っていくのはどうかと議論しましたね。

 最初は一戸一戸にクルマが入ったほうが便利じゃないかという声もあったんです。けれども敷地からクルマを排除することが重要だと話したら、星野代表も理解してくださって、そこからは早かったですね。

──確かに星のや 軽井沢は、自分のクルマを離れた場所に置いてからチェックインすることで、おとぎの国に来たような非日常性を感じます。

長谷川 僕は非日常ではなくて、あれが軽井沢の日常だと考えています。軽井沢が本来持っている魅力を最大化することが大事だと思ったんですね。もちろんクルマなどを見せないようにコントロールしたり、軽井沢の日常を強調する面はありますが、そんなに奇をてらっているわけではありません。

 私は少し違って、非日常性のなかの日常が大事かなと思っています。シンデレラとまでは言わないけれど、いつもとちょっと違う自分、背筋がすっと伸びた感じを楽しんでほしい。

 同時に家よりも快適に過ごしていただくためにごろごろする場所もたくさん作って、美しくごろごろしていただきたい。そういうことが大事かなと思いながらデザインをしています。

自然のなかでくつろぐことができる、星のや 軽井沢の「棚田テラス」。元から生えていた樹木を全て残しながら水を引き込むという、長谷川氏のこだわりが光る作品でもある。

文=サトータケシ
撮影(人物)=深野未季