近未来都市のイメージをくつがえす
旅情あふれるアスタナ

 アルマトイの次の目的地はアスタナ。カザフスタンは中央アジア最大、世界第9位の面積を誇るだけに、都市間も距離がある。南東部のアルマトイから北部にあるアスタナまで飛行機で2時間弱かかるけれど、便数が多いので、旅のプランは立てやすい。

 アスタナに向かう機内では、出会いもあった。

 アスタナの情報が載った在カザフスタン日本国大使館の資料をパラパラと読んでいると、隣席のお兄さんが写真を指差しながら、「この建物はすごく大きい」「この建物は外から見たほうがキレイ」と、カザフ語もロシア語もちんぷんかんぷんな私にジェスチャーで解説してくれたのだ。

 それなりに弾んだ会話(?)の最後には、スマホの英訳アプリを使って、「僕のオススメは必ずではない。自由に楽しんでください」と、はにかみながら伝えてくれた。

 アスタナは、1997年にアルマトイからアクモラに遷都された後に、改名された新首都。都市建設のデザインコンペで選ばれた黒川紀章の都市計画案に基づいて開発が進められた……という話は有名で、私はすっかり、この街にSFチックな印象を持っていた。カザフステップと呼ばれる草原地帯に点々と斬新な建造物が並ぶ、そんなイメージだ。

 はたして、初めて目にしたアスタナは、そんな想像とはちょっと違っていた。

 全面が黄色に輝く円錐形のツインタワーや、ガラス張りのピラミッド風建物、白とブルーで統一された巨大な国立博物館など、新しく巨大な建物はインパクトがあるけれど、SFチックには感じない。

 夜にライトアップされた風景はともかく、日中は人影も少なく、むしろ過去の遺産を見ているかのようにも思えた。

 むしろ惹かれたのは、旧市街で見る素顔のアスタナだ。旧ソ連時代の名残らしき無機質な建物もあるけれど、逆にそれらが哀愁を帯びていて、旅情をかきたてる。

 有名な建物以外に、企業や政府の建物もことごとく重厚感があって、ビジネス街でさえ、ぶらぶらと歩くのが楽しかった。

 もちろん、アスタナでも中央アジア料理を満喫。遊牧民のテントをイメージした屋外レストランに引き寄せられ入ってみると、雰囲気だけでなく料理もおいしい。

 夏は夜9時近くになっても空が明るく、民族衣装をまとったスタッフの控えめなサービスも心地いい。レストランではつい長居をしてしまった。

 でも、この旅で何より印象に残ったのは、ローカルの人々だった。

 人懐こいけれど距離は保つ。ちょっとだけ世話を焼いてくれるけど押し付けるでもない。カザフスタンで出会った人はだいたいこんな感じで、それもまた、私たち日本人と感覚が似ているな、と思えてならないのだ。

 中央アジア、なかなか面白いかもしれない。伝統楽器のドンブラや「ラハット」のチョコレートをお土産に帰路についた日、友人とは、「次はウズベキスタンを旅しよう!」と約束して別れた。

芹澤和美 (せりざわ かずみ)

アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオ ノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.journalhouse.co.jp/

Column

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2018.08.21(火)
文・撮影=芹澤和美