ほっこり愛らしい
南部庶民のソンベー焼

木製テーブルの上に並ぶ、料理の数々。厚手でぽってりとした形状の器に温かみがあふれる。

 優しい味つけが魅力のベトナム料理。日本では汁麺フォーやサンドイッチのバインミーなどが有名ですが、実は現地の食卓は日本と同様、ごはんを主食にして、いくつかのおかずを食べるスタイルが一般的です。また、料理に合わせてさまざまな付けダレを使いわけるため、自然と食卓には数多くの食器が並びます。

大胆に描かれた図柄など、素朴なデザインがかわいい。

 そこで、近年のホーチミン市では料理の味はもちろんですが、食器にもこだわるレストランが増えてきました。なかでも多く見られるのが、ブランド品ではなく、ベトナム古来の陶器を使用するお店。少しレトロな雰囲気のインテリアと相まって、どこか懐かしいベトナムを感じられると人気を集めています。

 ホーチミン市中心部にある「シークレット・ガーデン」も、そんなレストランのひとつです。通りから細い路地を入った古い集合アパート。一見お店があるようには思えない場所の屋上階に、ひっそりとたたずむ隠れ家レストランで、北・中・南部のバラエティ豊かな家庭料理を提供。地元ベトナム人だけでなく、在住外国人など幅広い客層から愛されています。

シークレット・ガーデンのオープンエアで居心地の良い店内。

 そんな同店で使用される食器は、ベトナム南部ビンズオン省の伝統陶器である「ソンベー焼」。ソンベー焼は家庭や屋台などで日常的に使われてきた、いわば庶民の食器です。

 比較的柔らかいことから、お店でもひび割れやふちに欠けがあるまま使用されていますが、それもまたどこか郷愁をさそう、絶妙の風合いとなっています。さらに煮物などは土鍋でそのまま出してくれるなど、食卓を飾る食器はどれもほっこりするものばかり。まるでベトナムの田舎の家に招かれたような気分にさせてくれるのです。

店内には伝統陶器をディスプレイ。

 そんな素朴な味わいが魅力のソンベー焼ですが、現在は伝統的な窯の多くが閉鎖され、流通量が減ってきています。まだ少量は一部の市場などで購入できますので、もしお気に入りを見つけたら、迷わず手に入れたい逸品です。

文・撮影=杉田憲昭