フランス王室に嫁いだメディチ家の娘は、フィレンツェの美食で宮廷中を虜にしたという。その極意を今に継ぐ名店を訪ねよう。

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フィレンツェの食通たちが
今、最も憧れを寄せる一軒

◆Il Palagio
(イル・パラッジョ)

ルネサンス期建造のデッラ・ゲラルデスカ宮殿に設けられた「イル・パラッジョ」。

 喧噪から離れ、広大な庭園のなかに佇むフォーシーズンズ・ホテル。ここに立つメディチ家ゆかりの宮殿に「イル・パラッジョ」は開かれている。2008年にオープンし、瞬く間にミシュランの星を獲得。フィレンツェの人が今、最も憧れを寄せるレストランだ。

 修復によりルネサンス期の優美さを甦らせた店内では、ヴィト・モッリカ総料理長が創作するモダン・イタリアンを堪能させる。

左:長年、フォーシーズンズ・ホテルに携わり、ミラノの総料理長も兼任するモッリカさん。同店は準備段階から関わり、1ツ星をもたらした。星をキープしつつも「守りに入らず、積極的でありたい」と言う。
右:ふっくらとしてコクのあるアンコウを菜の花、トルベ産黒ヒヨコ豆のピュレ、赤タマネギとともに。49ユーロ。

 「伝統的なイタリア料理が基本ですが、そこに新鮮味を加え、仕上げは健康的に。食材はトスカーナで旬のものを選び抜き、その良さを最大限に生かして、本物の料理に仕立てています」と総料理長。

左:干し鱈を詰めたトマトにガーリックソースを添えて。36ユーロ。
右:パンはフィンガーフードのようにサービス。

 その言葉は例えばシグネチャー・ディッシュの“カーチョ・エ・ペペ”で実感できる。ペコリーノチーズを使った伝統的なパスタと赤海老、仔イカの組み合わせは意外。だが、軽やかで奥行きのある味わいと食感の確かさは格別だ。

左:カーチョ・エ・ペペをショートパスタ、カバテッリで。出汁を思わせる澄んだ滋味が忘れられない一皿。35ユーロ。
右:ドメニコ・ディ・クレメンテ氏が手がけるドルチェも高評価。カンドンガ産イチゴのババロアは淡いバニラ風味。23ユーロ。

 ホテルのダイニングであることを心がけるサービスにもくつろげる。時に総料理長も交えて顧客と向き合う包容力は、このレストランの大きな魅力だろう。これからの季節、木立深い庭を眺めるテラスでの食事も心地よい。秋はジビエがメニューに登場。トスカーナの野趣が待ち遠しい。

Il Palagio
(イル・パラッジョ)

所在地 Borgo Pinti 99, Firenze
電話番号 055-26261
営業時間 19:00~23:00
定休日 日曜夜(12月末~3月下旬頃)
http://www.ilpalagioristorante.it/
※冬季休業あり

撮影=小野祐次
取材・文=上保雅美
コーディネイト=大平美智子