“顔の上だけで成立する
微妙な色彩学”のキモ

上から:モテライナー リキッド NvBkネイビーブラック 全4色 1,500円/フローフシ、RMK マットマスカラ N 03ネイビー 全4色 3,500円/RMK Division

 一方、今時のネイビーは濃紺に赤みを混ぜた茄子紺系が多く、これもまた、黒以上に目を際立たせ、大きく見せる効果がある。この微妙な赤みが人の顔に含まれる血色と同調しつつも、前に出る色だから、目もとに華をもたらして強調。ダークカラーにおける赤みは極めて重要なのだ。

 同様に、モスグリーンもマークしなくてはならない色。絵画の世界では、人の肌の影を茶色ではなくモスグリーンで描く。つまり最も馴染む影色は、このモスグリーンなのだ。アイカラーに使えば不思議なほど顔と一体になって、完璧な影の役割を果たしてくれるし、下瞼のラインなど、モスグリーンをほのかに引くと、本当に自然で見事なクマドリになる。まさに“顔の上だけで成立する微妙な色彩学”のキモは、ここにあるのだ。

 物の影は、グレーか茶。でも肌の上ではモスグリーンが影の色として最も自然になる。それも肌色は、極めて特殊な色。絵の具に“肌色”という色名がなくなったのも、人種問題への配慮だけじゃない、肌色は肌色という色ではないのだ。もっとその奥にある様々な組織の色を複雑にはらんでいる、一面的ではない色。タンパク質の色、血液の色、脂肪の色、それらが相まって奥行きある色を作っているから、微妙な色使いが意味を持ってくるのだ。

 その肌の色においてとても重要なのが、黄色。黄色をおしろいとしてのせると見事にキメが整い、均一で透明感もある、ロウのような美しい肌になる。黄色人種の肌だから? いやむしろ黄色はキメそのものの色なのだと考えても良い。だからキメに馴染んで、キメも毛穴も見えなくする。

 これこそ、実際に肌の上に置けば意味が分かるはずだが、まさにそれが理屈では説明しきれない顔の上の色彩の不思議。こんな微妙な色彩学があること、きっと覚えていてほしい。隠し技の達人になるために。

右から:ウルトラHDプレストパウダープレスト 02バナナ 全2色 4,500円/メイクアップフォーエバー、チークカラー N 15ブトンドール 全20色 5,300円/レ・メルヴェイユーズ ラデュレ

齋藤 薫 (さいとう かおる)
女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイストに。女性誌において多数のエッセイ連載を持つほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『“一生美人”力』(朝日新聞出版)、『なぜ、A型がいちばん美人なのか?』(マガジンハウス)など、著書多数。近著に『されど“男”は愛おしい』(講談社)がある。

Column

齋藤 薫 “風の時代”の美容学

美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍する、美容ジャーナリスト・齋藤薫が「今月注目する“アイテム”と“ブランド”」。

2017.05.01(月)
文=齋藤 薫
撮影=吉澤康夫

CREA 2017年5月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

最近、眠れてる?

CREA 2017年5月号

最近、眠れてる?

定価780円