オーナーの自由な発想で実現した競馬場イベント

 一昨年の9月、7区に1店舗目をオープンさせたパティスリー“パティスリー・デ・レーヴ”は、現在、パリでとても評判の高い店です。日本語に訳すと“夢のパティスリー”という意味。

 オーナーのティエリー・テシエさんが、店のイメージディレクターとして、すべてを監修していますが、テーマは“子供の頃を思い起こさせるようなお菓子を提供する”。シェフ・パティシエには、味のマジシャンとも呼ばれるフィリップ・コンティチーニさんを起用して、エクレアやサントノレなどの古典菓子を、今の時代に合う味わいや見た目にクリエイトしています。プラリネクリームが流れ出すグルマンなシュー菓子、パリ・ブレストなどは、すでに店のエンブレムに。

 テシエさんは、もともと広告畑にいただけあって、自由な発想で店のイメージ作りをするのがとても上手。ポルトガルとモロッコにはシャトー・ホテルを経営していて、そして近々、ブラジルにもホテルをオープンさせます。つまり、提案することのスケールがふつうのパティスリーとはスケールが違う。

 そのテシエさんのとどまるところを知らぬ発想で、9月のある日曜日、パリ西方郊外のサン・クルー市のサン・クルー競馬場でピクニックパーティが開催されました。パリの競馬場は、レースのない日は、ゴルフの打ちっぱなしのための芝生になったりと、多目的公園と化しますが、ここサン・クルー競馬場もそう。

 今回は、その芝生を利用して、ピクニック形式ののどかなパーティ“Goûter de la rentrée(新学期のグッテ=味見)”を開催したのです。招待インフォメーションはフェイスブックで公開されたのですが、当初は16区にあるサロン・ド・テでこのグッテを開催するはずだったのを、参加者がふえたため、会場を競馬場の芝生にした、というのが経緯でした。

 夏のような日和になった日曜日。受付に行列ができるほどの盛況に。ブランマンジェ、チョコレートムース、ティラミスと焼き菓子が入った箱を受け取って、芝生へ直行。ときどき、シュークリームやマシュマロなども、子供たちが配って回ってくれました。そう、ドレスコードを店のシンボルカラー、ピンクと白に決めていたのも、なかなかのグッドアイディアだったでしょう。緑の芝生に、キュートで優しいピンクと白が点在して、穏やかなバカンスのような夏の日が戻ったひとときでした。

La Pâtisserie des rêves(パティスリー・デ・レーヴ)
www.lapatisseriedesreves.com/
93 rue du Bac 75007 Paris
電話番号 01.42.84.00.82
営業時間 9:00~20:00(火~土)、9:00~16:00(日)

111 rue de Longchamp 75016 Paris
電話番号 01.47.04.00.24
営業時間 10:00~20:00(火~金)、9:00~20:00(土、日)

伊藤文(いとうあや)
パリ在住食ジャーナリスト・翻訳家。立教大学卒業。コルドンブルー・パリ校で製菓を学んだ後、フランスにて食文化を中心に据えた取材を重ねる。訳書に『ロブション自伝』『招客必携』(いずれも中央公論新社)、著書に『パリを自転車で走ろう』(グラフィック社)など多数。日本復興支援協会GANBALO代表。

Column

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Text:Aya Ito