この地が「一夜にしてできた」という伝説も

 県道から約1万本ものアカマツとクロマツの林を抜けて、海へ向かいます。砂地すれすれまで枝を伸ばした松の古木の脇を抜けて砂浜へ。

 松林のちょっとした暗がりから、一気に光あふれる海の開放的な眺めが広がります。緩やかに弧を描く浜辺の左手には三内山など小高い山が重なり、右手は港のコンテナ。砂はキビ色で波打ち際は小石系。透明度も高そうです。

 驚くほどの絶景というよりも、空と海を眺めて憩うみんなのビーチという感じでしょうか。夏は海水浴場として開放され、花火大会や灯篭流しなども行われるそう。その一方で、冬は雪化粧の松林と荒れた日本海の、厳しくも雄大な自然。季節により、景色も変わります。

 そんな気比の松原は、“一夜松原”とも呼ばれています。これは、伝説に基づくもの。

 聖武天皇の頃、この地に異賊が来襲してきました。すると、浜辺一帯が突然震動し、一夜にして松林が出現。その松の梢に氣比神宮の使い鳥であるシラサギたちが無数に舞い降り、その光景はまるで風にはためく旗指物のよう。それを見た敵勢は数万の軍勢と勘違いし、逃げ去っていきましたとさ、という話。

 地元では「けいさん」と親しみを込めて呼ばれる氣比神宮。地元に迫る危機に一肌脱いだに違いないと、信じたくなる伝説です。

2024.07.27(土)
文・撮影=古関千恵子