2024年4月6日からいよいよスタートしたNHKアニメ『烏は主を選ばない』。第2話「ぼんくら次男」のストーリーには、阿部智里さんの原作「八咫烏シリーズ」の中から、外伝「ふゆのことら」(『烏百花 白百合の章』所収)に登場するエピソードも挿入されています。

アニメ化を記念して本外伝を全文公開! 4月15日から5月15日までの限定公開ですので、この機会にどうぞお愉しみください。


八咫烏シリーズ 外伝
「ふゆのことら」
阿部智里

『烏百花 白百合の章』(阿部 智里)
『烏百花 白百合の章』(阿部 智里)

 透き通った冬の蒼天に、鬨の声が吸い込まれていく。

 空気はきんと冷たく、唇からは白い呼気が溢れているが、体中の血は沸き立っていた。

 市場からほど近い広野の一角で向かい合い、ぶつかり合った両陣営は、いずれも十五に届かない少年ばかりである。

 味方は四人、敵は十人。

 ――上等だ。

 雑魚ほど群れたがるものだ。全く負ける気がしなかった。

 奇声を上げ、こちらにまっすぐに突っ込んで来たのは、先日喧嘩を売ってきた総大将だ。

市柳(いちりゅう)! さんざんでかい顔しやがって、今日という今日は容赦しねえ」

 自分と同年代の割には大柄で太ってもいるが、常日頃、大人に混じって鍛錬している市柳にとっては大した問題ではない。

 振り下ろされた棍棒を華麗によけると、鼻で笑って怒鳴り返した。

「でかい顔してんのはてめえの方だろうが。おウチ帰って鏡を見ろや不細工野郎」

「あんだと、てめえが言えた面かよコラァ」

「やんのかコラァア」

 うおおお、と叫んで再び武器を振り上げた敵を嗤い、電光石火、市柳は相手のふところに勢いよく飛び込んだ。思いがけず接近され、目を大きく見開いたその顔に「馬鹿め」と呟く。

 市柳はこぶしを鋭く振り上げると、たるんだ顎にガツンと一撃を食らわせた。

「よっちゃん」

 周囲から悲鳴が上がる。

 先ほどまで大口を叩いていた敵は、ぐらりと揺れ、白目を剝いて昏倒した。

「よっちゃん、しっかりしろ、よっちゃん!」

2024.04.26(金)