これまで見学不可だったガウディ作の邸宅がついに一般公開

 今回ご紹介するのは、ガウディ作のベリャスグァルド邸(Torre Bellesguard)。現在も個人宅として使用されており、また周囲を高い塀と木々で囲まれているため、これまでは自由に見ることができなかったのだが、この建物が、昨年9月より一般公開されている。

土地の高低差を避けるために高架化された屋敷前の道路。
高架下のデザインをみれば、ガウディの手によるものであることは一目瞭然。
中世の城をイメージした外観。

 見学には2通りあり、ひとつはオーディオガイド(日本語あり)を聞きながら外観のみを見学するもの。もうひとつはガイド付きツアー(英語・スペイン語・カタルーニャ語)で建物内部や屋上のテラスまで見学できるというもの。せっかくここまで来たのなら、おすすめはやはりガイド付きツアーだ。

 ツアーは、入口左手の、カタルーニャの紋章を掲げた城跡部分からスタートする。この地はもともと14世紀末から15世紀初頭にかけて、バルセロナ伯としてカタルーニャに君臨していたマルティI世の居城があったところ。現在の「城跡」は、わずかに残っていた当時の遺構の上にガウディが造ったものである。

 マルティI世は後継を残さずに亡くなり、2年後に決定された後継者はカスティーリャ王の系列だったため、その時点で実質的にカタルーニャの王家は途絶えたとされている。現在も続くスペイン(カスティーリャ)vsカタルーニャの確執はよく知られているところだが、生粋のカタルーニャ人であったガウディは、建築にあたって、この地とカタルーニャの歴史との結びつきを強く意識したに違いない。

テラスの一角から建物を振り返ると、ドラゴンの顔に。こんな仕掛けになっているとは、地上からではわからない。

 それは、庭園内のこの城跡だけでなく、邸宅自体の設計にも十分に反映されている。直線と平面を多用したデザインは、マルティI世の時代、つまり中世の城をイメージしたもの。また、石造りのファサードにおいてひときわ目立つ、玄関脇の白タイルのベンチには、カタルーニャやマルティI世にちなんだモザイクが施されている。

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文=坪田みゆき