太平洋でひとり遭難したヨットマンの物語を妄想

伊藤 彼は夜の太平洋のど真ん中に浮いている。大破したヨットの欠片につかまり、なすすべもなく波に揺れている。生きていくために必要なものは全て海がさらってしまい、残されたのは頼りないヨットの欠片と自分だけ。
 日本を離れて1000キロ、死神のような嵐が彼らを襲った。たった一人の相棒は真っ暗な海にあっさりと飲みこまれてしまった……。生きてはいないだろう。相棒を失って悲しみに暮れるような暇を“偉大な嵐”はくれない。彼はヨットにつかまり必死に堪えたが、彼より先にヨットは金切声をあげて粉々に散っていった。
 その後どうやって生き延びたか覚えていないが、目を開けると凪いだ海に独り、満天の星に囲まれていた。

山口 壮大な舞台設定ですね!

伊藤 彼は身体の感覚を確認して、自分の体力はもってあと数時間だろうと思った。海を知っている人であれば、こんな大海の真ん中で運よく貨物船に発見されるなんて言うことは小説や映画の世界だけだということを知っている。
 待っているのは死という空虚。神に問いかけるように「なぜオレを生かしたんだ? どうしろってんだ!」と声に出してみるが、神は冷たく無反応だ。
 太平洋横断などという夢を描いたこと、沢山の人に見送られて意気揚々と出港した自分が愚かすぎて涙が出てくる。4歳になる娘と、まだ1歳5カ月の息子を抱えた妻の顔を思い浮かべ、心の中で「ごめんな、ごめんな」と繰り返す。霧が流れ込んでくるように意識は遠くなっていき、もう体が沈んでいきそうだ。
 「そうか、もうオレは死ぬんだ」と思った時、彼の目に光が飛び込んできた。夜の海ではあり得ないくらい眩しく鮮明で、燃えるように熱い光。彼は瞼にわずかな力を込めて、それを摑まえた。「そうか……ポラリスか」。

山口 今回はMISIAにも読んで欲しい「妄想」です。スタッフを通じて、伝えておきます。全然、違うって怒られるかもしれないけれど(笑)。

伊藤 ドラマとも全然違いますからね(笑)。でもポラリスというのが現在の北極星ということで、こんな絵が出てきちゃいました。この詞は「愛、命、希望」と言うしかないと思うんです。でも“ぺガサス”という想像上の生物が出てくることで、どこか“救われない現実”みたいなものも感じてしまいましたね。

山口 ちなみに、CDリリースの2月5日は、Hey!Say!JUMPの「AinoArika」と、東方神起の「Hide & Seek / Something」も同日リリースで、日韓のスーパーアイドル対決に挟まれてしまっていますが、実力派DIVAの曲も注目してほしいですね。

伊藤 もはやアイドルと同じ土俵でCD売上を語るのも違和感を感じますが、やっぱり実力派アーティストにも頑張ってもらって、アイドルブームの反動を呼び込んでもらい、今年の音楽業界を盛り上げる起爆剤になってほしいですね。

MISIA「僕はペガサス 君はポラリス」
アリオラジャパン 2014年2月5日発売
初回生産限定盤¥1500、通常盤¥1200
■MISIA にとって30枚目となるシングルは、向井理、綾野剛が主演を務めるTBS日曜劇場「S -最後の警官-」主題歌。ドラマの世界観を盛り上げる情緒的なメロディと力強い歌声が、心を震わせる。
■「僕はペガサス 君はポラリス」作詞/MISIA 作曲/横山裕章
■オフィシャルサイトURL http://www.misia.jp

山口哲一 (やまぐち のりかず)
音楽プロデューサー、コンテンツビジネス・エバンジェリスト。(株)バグ・コーポレーション代表取締役、「デジタルコンテンツ白書」(経産省監修)編集委員。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバルな視点、異業種コラボレーションを掲げて、音楽とITに関する実践的な研究を行っている。著書に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)、『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』『プロ直伝! 職業作曲家への道』(リットーミュージック)がある。最新刊は『世界を変える80年代生まれの起業家 ~起業という選択~』(スペースシャワーネットワーク)。詳細プロフィールはこちら
Twitter@yamabug https://twitter.com/yamabug
ブログ「いまだタイトル決めれず」 http://yamabug.blogspot.jp/
作曲家育成セミナー「山口ゼミ」 http://www.tcpl.jp/openschool/yamaguchi.html
WEDGE Infinity連載「ビジネスパーソンのためのエンタメ業界入門」 http://wedge.ismedia.jp/category/entertainment

伊藤涼 (いとう りょう)
音楽プロデューサー、ソングライター。ジャニーズ・エンタテイメントで『青春アミーゴ』などのミリオンセラーをプロデュース、後にフリーランスに。ソングライターとして、乃木坂46『走れ!Bicycle』、AKB48『ここにいたこと』などの作品がある。作詞アナリスト、フードミュージックプロデューサーとしても活躍。論理的で明晰な分析力に注目。
マゴノダイマデ・プロダクション http://www.mago-dai.com/
ブログ「伊藤涼の音楽」 http://ameblo.jp/magodai/
伊藤涼が主宰する作詞研究室リリック・ラボ http://www.mago-dai.com/?p=398

Column

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音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!

2014.01.27(月)