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胚培養室は患者さんにとって“ブラックボックス”

おかざき 「培養士は不妊治療の心臓部」というお話がありましたが、そんな大事なプロセスを担っているにも関わらず、胚培養室って、患者さんにとってみたら、ブラックボックスなんですよね。

石川 先進的なクリニックで治療件数も多いところでは、胚培養室を患者さんから見えるように配置しているところもありますが、多くの場合、患者さんからはどのように卵子や精子が扱われているか、見えづらい部分ですよね。

 着床するかどうか、最後の最後は受精卵の生命力にかかっていますが、その過程で胚培養士がいかにダメージを与えずに受精卵を扱えるか。実際には試行錯誤しながら、胚培養士一人一人が洗練された技術を駆使して、最善の医療へと繋がるよう貢献しているんですよ。

おかざき 患者さんにとっても、自分の卵子や精子、受精卵がどんなふうに扱われているか、そこは一番大事で、すごく気になる部分だと思うんです。

 だから、漫画ではなるべく、「あなたの卵子は、こういうふうに大事にされていますよ」ということを、丁寧に描いてあげたいと思いました。

 石川先生のクリニックでは、培養室に一日張り付いて見学させてもらうこともあったんですが、胚培養士さんが、卵子を大事に運ぶ姿がとても印象的でした。卵子になるべく温度のストレスを与えないよう、たとえ数歩動かすのにも卵子が入ったディッシュを両手で温めていらっしゃいますよね。

石川 当院の培養士一人一人が、みんな真摯な気持ちで仕事と向き合っています。そこを丁寧に描いてくださったのは非常に有難いことです。それに、おかざき先生も、編集者の方も、本当に真摯なお気持ちで培養室に入っていただき、とても感謝しているんです。

 以前、仕事のご縁でサッカーの元日本代表監督の岡田武史さんを胚培養室にお連れしたことがあるのですが、培養士の仕事にとても興味を持ってくださって、「あれはどうなってるの」「これはどうなってるの」と培養士とずっとやり取りしてて。僕と食事の約束をしていたのに、胚培養室からなかなか出てきてくれませんでした(笑)。でも培養室が不妊治療にとっての命の起源であることを、ちゃんと理解してくださっているのだなと感じたものです。

 当院はメディアの取材等で、胚培養室をご見学いただく機会は多いのですが、受精卵という命を扱う仕事にどれだけ敬意を持っていただけるかは、人によって本当に違うんですね。培養室からは「おかざき先生たち、もういつでもうちのクリニックで働けますよ」と報告を受けています(笑)。

2023.01.30(月)
文=内田朋子