この記事の連載

 はじめまして。ライターの白石あづさです。若い時から日本全国、南極から北朝鮮まで世界100か国をぐるぐると回って、珍しいものを見てきました。旅をすればするほど「常識」と思っていたことがことごとく破壊されるような、衝撃の出会いが待っていたのです。

 「どうして世間にはこんな不思議なものがあるのだろう?」とひっそりカメラを向けていたところ、この謎連載のお話をいただきました。CREA WEB上で、ニッチなスポットや妙な体験談を書いていいのか不安しかないんですけど、私のツボにはまった旅先での出来事などをゆるゆるとご紹介していきたいと思います。

福島県小野町の山中に佇む「五百羅漢」

 さて、第一回目の今回は、最近、旅した中でもとびきりぶっ飛んだ場所をご紹介しましょう。私は無宗教で信仰心はさっぱりなんですけど、なんとも味わい深い日本の石仏を見るのが好きなのです。そしたら福島県小野町の山中に「五百羅漢」があると小耳にはさみまして、これはぜひ見てみたいと訪れることにしました。

 え、そんな尊い石仏にぶっ飛んでるとか、失礼じゃないかって? それは本編をこれから読んでいただくとして、まず羅漢って何ぞ? と思われる方もいらっしゃるかもしれませんので、簡単にご紹介します。

 羅漢とは修行によって煩悩を捨て、悟りを開いた尊いお坊さんのこと。そして、お釈迦様が亡くなった後に集結した弟子500人を「五百羅漢」と呼ぶのですが、仏様と違って人間なので表情豊か。国内のいくつかのお寺で見ることができます。

 今回うかがう東堂山の満福寺境内にある五百羅漢は、建てられたのが比較的新しく、通称「昭和羅漢」と呼ばれているそうです。

 なんでも昭和60年に小野町の町長が「昭和の還暦の年。昭和に生きた証を残そう」と町民に奉納を呼びかけたのだとか。もちろん町民だけでなく誰でも奉納することは可能で、今でも増えているそう。同じ顔は一つとしてなく、地元の石屋さんが、一人一人、奉納者と相談しながら丁寧に彫ったそうです。

 山の中に羅漢が500体とは、想像しただけでも気の遠くなるような一大事業です。本当にすごいことなんですけど、私が面喰ったのは、その膨大な数にではありません。以下、想像を超える衝撃的な羅漢たちとの出会いに震えた白石の訪問レポートをどうぞ。

福島の山中で待っている

 福島県郡山市から車で1時間。クネクネとした小野町の山道を進むと開けた駐車場が見えてきた。ああ、ここが807年に奈良の高僧、徳一大師によって開山された東堂山満福寺か。車を停めてドアを開け……え、さっそく目の前になんかいる……。

 米俵を担いでドスコイ仁王立ち……この銅像はいったい誰? 厚い唇に太い眉、むっちりとした顔立ちは個性派俳優・加藤諒さんに少し似ていなくもない。

 目をこらせば、額に巻いた鉢巻きには「JA小野町」の文字。農協太郎という勝手な名がとっさに頭に浮かんだが、足元のプレートを見れば、「豊年羅漢」と立派な名前がついている。まさか、これも羅漢なのか? 半開きの口は「米、食ってけ~」とでもつぶやいているようだ。

2022.10.02(日)
文・写真=白石あづさ