使い込まれた革表紙の辞書「コンサイス・オックスフォード・ディクショナリー」は、父親の小和田恆さん(元外務官僚・元国際司法裁判所所長)から譲り受けたもので、皇室入りなさるときに一緒に持ってこられた“嫁入り道具”でもあった。

「ハーバード大学時代の雅子さまは、お一人で暮らす寂しさもあったのか、毎日、図書館で勉強をなさっていたそうです。そのため常に辞書を手放さず、『辞書が恋人』とからかわれるほど肌身離さずお持ちでした。ある日、食事会の時も『まさか、今も辞書を持っているんじゃない?』と聞くとバッグの中から出したり、引っ込めたりしながら辞書を見せて、皆を笑わせていました」(ハーバード時代の友人)

 

雅子さまが愛用された、ハーバード時代の思い出の椅子

 今回の特別展のために書斎から出して来られた辞書は、雅子さまの青春時代から現在までを見つめてきたものだった。辞書の他には、2006年の歌会始の歌を題材に制作された、かな文字の書と、ご婚約後にハーバード時代の友人からお祝いで贈られたという、見るからに頑丈そうな木製の椅子を出品されていた。

 椅子は雅子さまが大学の寮で使われていたものと同型で、背もたれに雅子さまのお名前と卒業年次、大学のエンブレムが彫られている。雅子さまは、東宮御所の陽が射す窓際に椅子を置き、そこで束の間の時間を過ごされることもあったそうだ。

留学のご経験がある史上初の天皇

 陛下は、留学のご経験がある史上初の天皇だ。学習院大学大学院在学中の1983年6月から85年10月まで、英国のオックスフォード大学マートンカレッジで、「17、8世紀における英国テムズ川の水運」を研究テーマに滞在された。今回展示された全身を覆う赤のローブと黒の帽子は、名誉法学博士号授与式で着用されたもので、衣装の側には、実際に陛下が着用なさった当時の写真が添えられている。

 雅子さまも外務省時代に研修留学で、オックスフォード大学ベリオールカレッジで学ばれた。展示会場を回られながら、お二人は英国の留学時代を振り返られ、卒業後も御所などでお会いしていた陛下の恩師ピーター・マサイアス教授の思い出話をなさるなど実に楽しそうだったという。

2021.12.20(月)
文=友納尚子