“出番の少ない役”もチャンスに変える

 そして見舞われたのは「自分は世の中から必要とされていない」という不安感。やがて歌舞伎座は8月に公演を再開しましたが、それがさらに追い打ちをかけます。

 「出演できる人数は限られていますから仕方のないことではありますけれど、そこに自分が入っていなかったのはやはりショックでした」

 出演者はさまざまな複合的要因で決定されるのですから、そこまで過敏にならなくてもという声が聞こえてきそうですが、それだけ精神的ダメージが大きかったのでしょう。

 9月は歌舞伎座の第二部で上演された『かさね』に出演することになりました。それは松本幸四郎さん、猿之助さん主演の舞踊劇で、隼人さんが演じたのは出番が短くせりふもほとんどない捕手の役でした。

 「自分は何とも思いませんでしたが、びっくりされた方もいらっしゃいました」

 ファンにとっては衝撃の出来事でしたが、隼人さん自身はこれがモチベーションを上げるきっかけになったと語ります。

 「役をいただいたからこそ稽古に参加することができます。そして初日が開けば毎日その芝居に触れることができる……。人との接触を極力減らさなければならない状況の中、こんなありがたいことはないと思いました」

 幸四郎さん演じる与右衛門は、隼人さんにとっていつか自分も演じたいと思っている憧れの役。その時がいつ突然やってきてもいいくらいのつもりで準備しようと、稽古や日々の舞台に取り組み勉強する毎日だったそうです。

 久々に立った歌舞伎座の舞台でつくづく実感したのは「でかさ」でした。

 「単純に大きい、広いということもありますが、歌舞伎座にはそれだけではない重みがあります。ここで芝居ができる役者にならならければ、と改めて思いました」

2021.09.26(日)
文=清水まり
撮影=石川啓次
スタイリング=石橋修一
ヘアメイク=佐藤健行(HAPP’S.)