「ムコ殿」
ギャップのあるふたつのキャラクターが楽しめる

 続いて紹介するのは「ムコ殿」(01年・フジテレビ系)。みなさん歌えますよね、桜庭裕一郎(長瀬)の「ひとりぼっちのハブラシ」。ドラマ内だけでなく、実際にCDとして発売された名曲で、プロデュースしたのはドラマにも出演していたつんく♂です。

 では改めてストーリーを説明します。長瀬が演じるのは天涯孤独の抱かれたい男NO.1のシンガーソングライター・桜庭裕一郎。アイドル的な人気を誇っていますが、一般女性の新井さくら(竹内結子)と極秘結婚、しかも婿養子に入るのです。そんな新井家は総勢7人のとんでもない曲者ぞろい。その中で家族の愛を知らなかった裕一郎が徐々に馴染んでいき、家族の一員として認められていく過程を描いたホームコメディになっています。「タイガー&ドラゴン」もそうでしたが、本当に長瀬は孤独が似合うし、それ以上に愛されキャラが似合う。まるで大型犬です。

 芸能人という役柄上、世間的にはクールな二枚目キャラ、でも私生活はドジでお茶目で熱い心を持つただの男となる長瀬。キメキメでかっこいい姿はもちろんのこと、ボサボサ頭にヘアバンドをつけ、メガネにパジャマのプライベート姿もまた最高! 同一人物とは思えないこのふたつの姿を見事に演じ分けていました。裕一郎は大人気アーティストなので、ドラマでは美声も存分に披露してくれています。俳優としてだけでなく、ボーカリスト長瀬の魅力も存分に楽しめるのがこの作品のおすすめポイント。あと、裕一郎とさくらの、ラブラブなバカップルぶりも観ていてほっこりします。

 ちなみに前作同様の内容ながらストーリーの繋がりはない「ムコ殿2003」(03年・フジテレビ系)では南(酒井法子)がヒロイン。裕一郎は「お前やないと あかんねん」という曲をリリースしています。

泣くなと言われると余計に泣ける……切なくも優しいドラマ
「泣くな、はらちゃん」

 脚本家の岡田惠和が長瀬をイメージして書き下ろしたドラマが「泣くな、はらちゃん」(13年・日テレ系)。はらちゃん(長瀬)は、かまぼこ工場で働く越前さん(麻生久美子)が描く漫画のキャラクター。ある日奇跡が起こり、はらちゃんは現実世界に飛び出し、越前さんに恋をします。このファンタジー作品、観る度に胸がジーンとするんです。ちょっと元気がなかったり自信をなくしたりしたときについ観返してしまう、不思議な力を持つ作品です。

 赤のスタジャンとジーパン・スニーカー姿でギターを背負った姿がトレードマークのはらちゃんは、真面目だけど感情の起伏が激しく、底抜けにピュアで涙もろい性格。この時代錯誤ともいえるキャラクター、長瀬自身が積極的に意見を出して作り上げたそうです。現代では「ダサい」と言われてしまうようなキャラですが、そこにこそ長瀬の良さがどうしても現れてしまうからすごい! だって長瀬=人間味のかたまりですから。人としての豊かな感情や思いやりがあり、人の嫌がっているようなことはできない。それに誰にでも分け隔てなく同じ態度をと取り、誰からも憧れられる存在なんですよね。長瀬の人間味は、ドラマにおける万能調味料。スイートな甘味、素材を引き立てる塩味、爽やかな酸味、大人の苦味、そして旨味という基本の五味すべて含んでいるんですから。だから彼の存在ひとつで、ドラマはいい味にまとまるんです!

 主題歌はTOKIOの「リリック」。作詞作曲は長瀬自身です(この曲以降ほとんどのシングル曲の作詞作曲を手掛けるようになった)。中島みゆきや長渕剛、玉置浩二提供の楽曲を歌いこなせるバンドが、自分たちの音楽を表現しだしたのはこの瞬間から。曲はドラマの主題歌に沿った内容で、「逢いたいと思うだけで 胸が痛むよ」という歌い出しの切ない歌詞にさっそくやられます。

「神様! お願いします。あなたが幸せでないと、われわれの世界は曇ったままなんです。どうか幸せになってください。そのためにがんばって戦ってください! お願いです、神様! 世界を変えてください! あなたが笑えば世界は輝くんです!」。はらちゃんのセリフの一つひとつが素直に心に響くのは、長瀬本人の心根の優しさをみんなが知っているからでしょう。

長瀬ドラマはいつも新たな道の
歩き方を教えてくれる

 もっとあるんですよ、すばらしい作品。あのドラマの話もあのドラマの話もしたい! もう過去を語ることしかできないなんて、なんて寂しいんだ……。でも、そういえば「泣くな、はらちゃん」の脚本を担当した岡田惠和氏はドラマに対してのちに「『はらちゃん』を忘れないであげてください。作品は忘れられると死んでしまうので」と話していました。

 俳優長瀬智也の新しい姿をもう観ることはできないかもしれないけど、素敵な作品はたくさん残っています。自分の進むべき道を決めなくていけない、10代の悩みや葛藤を描き出した「白線流し」から、40代でなお新たな自分の生きる道を模索する「俺の家の話」まで。何十年にも渡ってドラマに主演し、「生きる道」を探し続けた長瀬智也。彼が選ぶ新しい人生も、私たちが応援しなくてどうする! 作品があるかぎり、そして私たちは忘れないかぎり、いつでも会えるんです。寂しくなったらいつでもまた観ましょう、長瀬ドラマ。

綿貫大介

編集者・ライター・TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
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2021.03.19(金)
文=綿貫大介