ハイレベルな俳優陣の演技対決は「何万円払っても観たい!」

――いま話題に上りましたが、『望み』は、堤真一さん・石田ゆり子さん・岡田健史さん・清原果​耶さんという4人の演技対決が、大きな見どころかと思います。堤監督から、皆さんが家族に見えるように、演技面でのアドバイスなどは行われたのでしょうか?

 4人それぞれ経験値は違いますが、大変レベルの高い俳優さんが揃いましたからね(笑)。そのため、僕から「こうしてほしい」と言う必要がほぼありませんでした。

 堤さんは、主演映画『クライマーズ・ハイ』などを観て大感激していた人間なので、ずっとご一緒したいと思っていたんです。苗字も同じですし(笑)。

 セリフの一言一言にかける熱意というか、考えていらっしゃる気持ちの強さが、この作品を非常に高いところに押し上げてくれたと思います。

 石田さんは、ご一緒した映画『悼む人』で体当たりの演技をしていただきましたが、今回も「子を持つ母の想い」をすさまじいレベルで見せてくれました。

 ご本人はのほほんと温かな人に見えますが、非常に心が強い方ですね。その部分は、『望み』の後半で存分に生かされています。

 「父のプライド」と「母の愛」が、本作で最も表現したい部分でしたが、堤さんと石田さんは本当に100パーセント出し切ってくれました。

――そのおふたりに挑んでいくのが、岡田さんと清原さんです。長男役の岡田さんは物語の中心になる「殺人犯なのか? 被害者なのか?」という部分をにおわせないといけない、非常に重要なポジションですね。

 岡田くんはこれからの未来が嘱望される俳優さんですが、なんて言うのかな……“残り香”が凄いんです。

 彼が演じる長男が家から出ていくときに、少しだけ後ろを見て去っていく。きっと母親の脳裏にも、観客にもずっとそのイメージが残っていく。それくらい印象的でした。

 「見返り美人図」のように、こんなに振り返るのがセクシーな役者はなかなかいないと思いますね。流し目なのか背の高さなのか顔の造作なのか……立派な存在だと思います。

 岡田くんには、顔には出せないけどその実、切羽詰まってるという感じの芝居をしてもらったのですが、僕自身そういう気持ちに至ったことは何度もあるし、自分の子どもがそう思っている瞬間もきっとあるだろうなと……。

 どんなに父母が子どもたちを守っているつもりでも、子どもたちの心の底には届かない何かがある、ということを描いた作品なので、そんな気持ちを表現させたら天下一品だと思いました。

――岡田さん扮する規士の妹を演じた清原さんは、兄の失踪によって両親が壊れていく姿を目の当たりにするポジション。こちらも、難しい役どころかと思います。

 清原さんは天才的に上手いです。これはもう言うことなしですね。説明せずとも、カメラを構えて「じゃあちょっと1回やってみよう」となったときのセリフのスピードや抑揚……いわゆる演出したい部分は全部クリアしているんです。

 さらに「その上には、何があるんですか?」という質問を浴びせかけてくる役者さんで、「そうか、映画監督というのは“その先”まで指示しないといけないんだ」と僕が教えてもらいました。

 まだ十代の若さで、カメラがあったり、大勢の人が動き回ったりしている中ですごい集中力で役の思いのたけをクリアに表現していくなんて、普通はできないですよね。様々な作品に引っ張りだこなのが、よくわかりました。

 『望み』はこれだけレベルの高い役者が集まったから、自分で撮っておきながら「何万円払っても観たい!」と思えるような舞台に立ち会っている感覚でした。それくらい心に迫るシーンや、芝居が多いですね。
 

2020.10.13(火)
文=SYO
撮影=鈴木七絵
スタイリング=関恵美子