枯れているように見えなくする工夫

 花を枯らさないようにするのと同様に大切なのが、「枯れているように見えなくする」ことです。そうすると、より長く花を楽しむことができます。

 多くの花は茎を切られた瞬間から、ゆるやかに枯れる状態へと向かっていきます。切り花は茎を切られているため、最初から枯れ始めている花ともいえるかもしれません。

 では、人が枯れていると認識する花はどんな状態でしょうか?

 一番わかりやすく枯れていると認識する状態は、花首が下がってだらんとして、しおれてしまっている状態です。実際には水がきちんと吸い上げられていて生き生きとしている花でも、首が下がってしまうと、枯れているように見えてしまうのです。

 逆に言えば、実際には水を吸い上げておらず、枯れていてドライな状態になっていても首が垂れ下がっていなければ、枯れているように見えないということです。

 もう1点、枯れていることを判断するわかりやすいポイントが色。実際には生き生きとした花でも、花びらや葉が茶色くなっていると、人は枯れていると思うでしょう。

 2009年にサントリーがそれまで不可能とされていた、青いバラを開発して販売したことは記憶に新しいですが、近年市場に出回る花の色のバリエーションも飛躍的に増えています。

 ビビッドなカラーやパステルカラーだけでなく、最近では少しくすんだ色合いや、グレイッシュトーンといわれる、グレーがかった色合いがもてはやされたり、黒い色の花があったりなど、花の色はどんどん自由になっています。

 つまり、花の色が多彩になった今、いわゆる「枯れている茶色」にならなければ、少しくらい色があせたり、くすんだりしても美しい花として鑑賞できます。

 「花首の下がり」「枯れた茶色」を避ければ、枯れたように見えない=いつもより何倍も花を長く楽しめるのです。

 フラワーアレンジメントにはグリーンの使いかたが重要だということは、第3弾でご説明いたしました。

 花と花の間にグリーンがあるとクッションの役割を果たし、グリーンが花首を支えてくれます。

 花と花の間にグリーンがなく隙間が空いているアレンジメントは、そのうちに花首が垂れてきてアレンジメントの形が崩れてしまい、花は生きているのに枯れているアレンジメントだと思われてしまいます。

 これは100輪のアレンジメントでも、自宅用に3輪の花を買って花瓶に生ける場合でも同じです。3輪すべてを花にすると支えがないのですぐに首が下がってしまいますが、3輪のうち1、2輪をグリーンにして支えると花の首が曲がらないので、枯れているように見えません。

 花とグリーンが隙間なくお互いを支えているアレンジメントは、結果的に長持ちするということです。

 箱に花がぎっしりと敷き詰められたボックスアレンジを見たことのあるかたもいらっしゃるのではないでしょうか?

 ボックスアレンジは茎を短く切ってしまうため、本来であれば花の持ちは悪くなってしまうように思われます。

 しかし、箱の中にぎっしりと隙間なく花が詰まっているため、花に水がいきわたらずにしおれたとしても、花首が曲がることなくまっすぐな状態が続くのです。

 結果的に長持ちするアレンジメント、長持ちしているように見えるアレンジメントとなります。

おわりに……

 さて、「ミニ花束+1輪」から始まった「花のある暮らし」の叶えかたはいかがでしょうか?

 花を買う曜日を選んでみたり、花屋さん巡りをしてみたり、枯れ始めの花を見分けてみたりすることは、つまりは「花の旬」をとらえることです。

 仕事や家事で時間に追われたり、新型コロナウイルスによる影響で家で過ごす時間が増えたりなど、生活のリズムを崩しがちな今こそ、「花の旬」に向き合い、自然界に存在する一定のリズムを、日々感じてもらえればと思います。

佐藤俊輔(さとう しゅんすけ)

フラワーデザイナー。大手百貨店退社後、花の世界へ。2014年モナコ国際親善作品展国内選考会で特別賞を受賞。'17年「女性自身」(光文社)、’19年日本最大級の花材通販「はなどんやアソシエ」にて季節のアレンジメントを連載。テレビ、ラジオ出演のほか伊勢丹メンズ館のディスプレイ装飾など幅広く活躍中。