晩年はポエティックな世界へと
80年代になると、社会に対して非常に強い言葉を投げかけるような批判的な言葉から、だんだんと内省的な、あるいはより文学的でポエティックな内容に変わっていく。
病気による体力低下の影響もあるのだろう。作品サイズも、手の中に収まるような小さいものになっていった。そして最晩年は、草野心平の詩や、宮沢賢治の童話なども書くようになる。
しかし、書に対する気概は激しく、ブツブツと言葉を吐き出し、叩きつけるように制作していったこれらの作品を、鉛筆の芯が飛び、コンテがボキボキと折れていこうとも、構わず書き続け、間違えたところや気に入らなかったところは、上からグリグリと黒く塗りつぶして書き進めたという。
《これでコンテもをわり》は、85年6月にこの世を去る有一が、その前年に書いた最晩年の作品。
(これでコンテもをわりです。九月二日です。ながいあいだごくろさんでした。べつにどうということないです。てなもんやないか……)
「最後はちょっと茶化しているような言い方ですが、『ながいあいだごくろさんでした』というのは、自分自身に向けて書いているのでしょう。まぁ、自分の人生はどうということもない、と少し照れている感じです」と秋元氏は有一の心境を説明する。
書家として絵画と書の境界を超え、書を芸術へと昇華させた井上有一の69年の人生を、その書を通して知る貴重な展覧会「井上有一 1916-1985 -書の解放-」は、9月15日(土)まで、パリ日本文化会館で開催。
その後、会場を移し、アルビ市のトゥールーズ・ロートレック美術館で9月29日(土)から12月17日(月)まで開催。
「井上有一 1916-1985 -書の解放-」展
会期 2018年7月14日(土)~9月15日(土)
会場 国際交流基金パリ日本文化会館
所在地 101 bis Quai Branly, 75015 Paris, France
開場時間 12:00~20:00
休館日 日・月曜
料金 5ユーロ
https://www.mcjp.fr/jp/
会期 2018年9月29日(土)~12月17日(月)
会場 トゥールーズ・ロートレック美術館
所在地 Palais de la Berbie, Place Sainte-Cécile 81003 Albi Cedex, France
開場時間 9月/9:00~18:00、10月/10:00~12:00、14:00~18:00、11~12月/10:00~12:00、14:00~17:30
休館日 火曜、11月1日
料金 9ユーロ
http://musee-toulouse-lautrec.com/
「ジャポニスム2018:響きあう魂」
景山由美子
伊藤若冲を始めとする江戸絵画コレクター。株式会社景和 代表取締役。出版社での編集職、IT企業のコンテンツプロデューサーを経て起業。古美術を扱う傍ら、美術関係の執筆・編集のほか、若冲をテーマにした茶会や鑑賞会を主催。国内外の展覧会への出品や講演を通して、アートの世界観や作者の想いを伝えるべく、日々奔走中。
Feature
パリを彩る日本文化の祭典
「ジャポニスム2018」
文・撮影=景山由美子