4カ月におよぶ徹底改装の首尾は?
城崎(きのさき)は名まえがいい。
草津、湯布院、下呂、有馬、黒川、道後……、日本には多くの名温泉街があります。これらにくらべても、城崎の音の響きは抜きん出てすがすがしい。
実際に、城崎温泉街は、大谿(おおたに)川をまんなかに挟んで、両側に木造三階建ての旅館や店舗が軒を連ね、柳並木はソヨとたなびく。街のたたずまいは、女子が大好きな倉敷の美観地区に似ています。それに加えて、ゆかた姿の入浴客が下駄を鳴らしてそぞろ歩きを愉しむのですから、またとない風情をかもしだしています。
日本旅行の温泉ランキングでは堂々の第10位にランクインしているのですが、温泉街としての心地よさは、日本で三指に入るのではないでしょうか。
伝説によれば、城崎温泉の開湯は1300年も前だといいます。志賀直哉、与謝野晶子、有島武郎などの文人墨客にも愛された温泉です。
右:夏の花火も城崎名物のひとつ。
さて、この地を代表するのが「西村屋」です。創業は江戸安政年間といいますから、150年の歴史をほこる老舗旅館です。
温泉街の「西村屋本館」と街のはずれに敷地5万坪を擁する「西村屋ホテル招月庭」のふたつがあります。関東圏ではいまひとつピンと来ないかもしれませんが、関西圏では知らない人はおりません。カニ解禁翌日の11月7日を待って、城崎の「西村屋」を目指すのが粋な関西人のならわしなのです。
今回、お伝えしたいニュースは、「西村屋ホテル招月庭」が4カ月におよぶ改修工事を終えて、2017年8月1日にリニューアルオープンしたことです。
全館の耐震補強工事に加えて、和室客室「月の棟」を改装し、バンケットホール「白陽」のリニューアル、セレクトショップ「さんぽう」を新設しました。
生まれ変わった和室ですが、まず上の写真でわかりますように、陰翳のアクセントがたくみです。細部の一端にふれておきましょう。天井には和紙が一面に貼られています。光が柔らかいのはそのためです。板の間は、板の表面が「なぐり加工」されていて、素足での踏み心地がよくよりリラックスできるしつらえです。
文・撮影=文藝春秋 増刊・ムック編集部