食器洗いも、いやです。食洗機を導入したものの、中に食器を入れるのがとても苦手です。普通に洗ったほうが早かったんじゃないか? と思うくらい時間がかかる上、最後はむりやり閉めるので、スイッチを入れるとカチャカチャ変な音がして、食洗機の中で欠けた皿が多くあります。入れ方が雑なので汚れが落ちていないときもあり、食洗機をあまり信用できていません。食洗機もまた私を嫌っているように見えてきて、キッチンの雰囲気はいつも悪いです。スーパーのお惣菜やミールキットやファストフードが救ってくれています。

 こんなに料理がいやですが、私も主人公と同じように、「料理が好きな人になりたかった」とたびたび思います。冷蔵庫にたまたまあった食材で何品も作り上げるプロフェッショナルが活躍するバラエティー番組に心躍り、来世は私もこんな人に……と思い描きます。その理由も、作中で主人公がたどり着いたように、「誰かに愛されたいから」ではなく「正しいとされていることを自然と選べる人に憧れているから」なのだと思います。

 まったく好きじゃないのに好きになれたらよかったのにと思う、そして自己嫌悪を無限に引き出す、そういう不思議な存在です。この不思議さを『料理なんて愛なんて』で書きたかったです。

 主人公は、同じところをぐるぐる回って遠回りし、結局、表面上は大きく変われません。どんどん共感や好感から離れていく主人公に「共感なんて、くそくらえだよな」と言い聞かせながら書いていましたが、本になった後は「ごめん、もっと共感されるように書いてあげられたらよかったな」と苦しいくらい思いました。

 特に、単行本の発売からしばらく経った今振り返れば、主人公の悩みの根本を描くにあたって、モテと料理の上手・下手を絡めたこと、それ自体が古かったのでは……と思います。いまだ、恋愛や結婚と料理をいっしょくたに考える人は多く、そこに悩まされる人も多いのが現実です。しかし、そういう現実をもっと壊していく力がある小説を、私は書きたかったはずでした。

「料理は愛情」という言葉の、自分なりに納得できる意味を、遠回りしながらも主人公は自分で見つけられました。そのふん張りの強さは、私にはまだない部分です。

 これからは知識や視点を前進させながら、なるべく抜け道を通らないで小説を書きたい。それを誓いつつ、『料理なんて愛なんて』の主人公の悩みは古いと、どんどん言われるようになることを望みます。


「文庫版あとがき」より

2023.05.31(水)