便利さが重視される時代と逆行し、行きやすさのハードルを上げた秘境に土地と深く繋がった滞在型の美食の地が2020年以降、各地で誕生している。
温泉地でもない人里離れた場所になぜ? その答えが“旅の醍醐味”の新たな扉を開ける。おすすめオーベルジュ3軒をご紹介。
“ローカル・ガストロノミー”を体現
◆L'évo(レヴォ)
[富山・利賀村]
富山駅から車を走らせること2時間近く。これぞ秘境、なんと不便な場所に! と思う一方で、包み込むように濃厚な自然の気配は、料理人にとっては不都合どころか天国なのかもしれない。
谷口英司シェフは、偶然見つけたこの場所に、そんな、自然と共にあり、地域に根付いた食、つまり“ローカル・ガストロノミー”の可能性を感じた。
レストランのほかに宿泊コテージやサウナ棟も一から建て、2020年12月、まるでおとぎ話のような小さな集落が誕生したのだ。
食事の前には、景色を眺めながら期待を高める
フロントのあるレストラン棟に入れば、木々と谷と空が広がる、絵画以上に惹きつけられるアートのような大きな窓。辿り着いた達成感と、ワクワクした気持ちが一気に心を満たす。
その奥にはレストランへ通じる扉があり、そこは食事スタートの時間まで決して覗くことができない。
が、食事の前には少し早めにここに来て、景色を眺め、ドア越しの活気を感じ、期待を高めるところから始めるのがおすすめだ。
宿泊する3つのコテージは、かつてこの場所にあった古民家の窓枠を使うなど、土地への敬意を感じられるインテリア。古い枠越しに眺める景色は、また少し違った様子に見える。
宿泊するならぜひサウナを。愛らしい煙突屋根建物にあるサウナは薪ストーブを囲むフィンランド式。
川のせせらぎを聞きながら外気浴ができるテラスもある。疲れを癒やし、旅先の空気に浸れる、最高の場所のひとつだ。
Photographs=Jun Hasegawa