「“生きる”がグラついたときの、エンタメの意味」

――劇中では震災だけでなく、コロナについても描かれていますね。

 タナダさんは今、これを伝えたいんだなって思いました。最初は震災から10年の福島が物語のメインだったんですが、コロナがあったことで台本にその要素が加えられたんです。生活や生きるということ自体がぐらついたときのエンタメに関して、監督はこんなことを考えているんだなと思いました。

――特に感じた物語の魅力は?

 誰も悲劇のヒロインをやっていないところ。多分、「今が人生マックス最高潮!」って人ってあまりいないと思うんです。それは震災やコロナにかかわらず、みんな何かしら我慢をして耐えている。どうしようもないことが起きたときに、どう折り合いをつけるかというお話なので、「なんかモヤモヤするな」ってときに見てもらえたら、ちょっとだけ体が軽くなる感じがするんじゃないかな。

 すっごく重い内容でもないし、かと言って軽すぎるわけでもない。押し付けがましくないのにじんわり感動できて、元気になれると思います。

 私自身が演じる茂木莉子役も、ピュアな部分はありつつも、口がものすごく悪くて嘘つき(笑)。上っ面の優しさはないけれど、でもちゃんと優しいんです。そんなお話を書いた監督のこと、「あ、好きだな」って思いました。

――エンターテインメントが直面する現実は、昨年以上に厳しさを増しています。映画やドラマ、舞台の世界に身を置く高畑さん自身は、今の現状にどう折り合いをつけていますか?

 もちろんエンタメ業界全体が苦しいのは本当に悲しいですけれど、私は逆に、「こんな状況になってもみんなエンタメが見たいんだ」と実感したんです。

 5月頭まで『ウェイトレス』という舞台をやっていたんですが、そのときに思ったんです。外に出ることすら怖いと思うのに、劇場まで足を運んで見にきてくれる。そしてそのお客さんで劇場が埋まるってすごいなって。だからこそ、今までよりももっと「やらねば!」と感じました。

 戦争中でも化粧品が消えなかったように、どんな状況においてもエンタメで心を潤す瞬間がある。ステージ上から満席の客席を見たときに、私のほうがエネルギーをもらえました。

――観客として楽しむ際の思いに変化は?

 それこそ去年の緊急事態宣言明けに久しぶりにライブに行ったんです。客席も半分だし声も出せなかったけれど、お客さんたちの熱気がすごくて。抑圧されることで際立つエンタメへの欲望を自分自身も感じたし、やっぱりみんなで想いを共有できる空間っていいなと思いました。

2021.08.28(土)
文=松山 梢
撮影=榎本麻美
ヘアメイク=市岡 愛
スタイリスト=岩田麻希