出会いが持つ可能性
そして力を強く感じました

――『デッドエンドの思い出』は原作者の吉本ばななさんが、ご自身の作品で一番お好きな小説だそうですが、この物語をどのように受け止めましたか?

 出会いが持つ可能性、そして力を、強く感じました。生きていたら、落ち込むことや傷つくこともある。でも、そんなマイナスに陥ってしまった気持ちから救い出してくれるきっかけや人が、ふいに訪れるんですよね。

 僕が演じる西山君には、不思議な力があり、人を寄せ付けて、あっためてあげることが出来る。それは自分が過去に辛い思いをしたことがあるからなんです。そんな西山君をどう表現しようかと考えました。

――西山君はオープンなようで、誰に対しても均等に距離を取っている人物ですね。

 そう、ちゃんと距離感はわかっていて、ただオープンなだけではない。だけど距離感を保ちつつも、お店に来てくれる人みんなをあったかい気持ちにさせることが出来る。スヨンさん演じるユミ(原作ではミミ)に対しても同じように接して、辛い状態から回復させることが出来ました。自分に、こんな素敵な男性を演じられるのかな、という不安もありました。

――スヨンさんは、田中さんご自身にも西山君と同じような部分、感情を全部表に出さないようなところがある、とおっしゃっていましたが。

 あ―――、見抜かれていますねえ(笑)。よく見てるなあ。僕は元々人見知りな面もあるし、お芝居の現場であまり人とコミュニケーションを取らないタイプなんです。役に集中していないと不安でしょうがないから、常に役に向き合っていたい。

 でも、今回は初めて、そういうやり方はやめて、とにかくコミュニケーションを取ろうと心がけました。キャストの方や、スタッフの皆さんといっぱい会話をして、そこで生まれたあたたかい空気をそのまま西山君にのっけてお芝居すれば、うまく働くんじゃないかな、と。そういうことが出来るのが、西山君だとも思ったし。

 とにかくスヨンさんにもいっぱい話しかけて。普段はそういうの、絶対しないんですよ(笑)。現場で一人でぽつんとして役のこと考えているんだって、いくらスヨンさんたちに話しても、全然信じてくれない(笑)。改めて、物作りをして行く上でコミュニケーションは大事だなと思いましたね。

2019.01.27(日)
構成=石津文子
撮影=佐藤 亘