世界中において最も標高の低い場所、それは死海の湖面である。

 海抜は約マイナス420m。ここでは、想像もつかない奇跡が起こる。

 プカプカと身体が浮かぶこの湖には、たくさんの謎が詰まっている。

正式名称:ヨルダン・ハシェミット王国
首都:アンマン
総面積:約8万9000平方キロメートル
人口:約605万人(2010年)
公用語:アラビア語
宗教:イスラム教(全人口の93%)
通貨:ヨルダン・ディナール(JD)
JD1=約¥113.8円(2012年2月末現在)
時差:日本時間-7時間
電話(国番号):+962

塩水をなめてみれば辛いというより苦い

 死海越しに見晴るかすイスラエルの湖岸は、緑もない裸の山が広がるばかり。だがここで人々は、時に祈り、時に争い、暮らしを続けてきた。

 恐らくその風景は、2000年ほど前からほぼ姿を変えていないはずだ。

ヨルダン側から対岸のイスラエルを望むと、白い月がぽっかりと浮かんでいた。死海は南北に細長く、東西の幅は約14km

 そう気づいた瞬間、遠い異国の古い伝説のようにしか感じられなかった聖書の言葉やエピソードが、急に身近なものとなってストンと腑に落ちる。風土、とはそういうものだ。そして、旅の醍醐味もそこにある。

死海に身体を浸すのは15分が限度。その後はすぐに真水で全身を洗うこと。濃厚な塩分が傷などにしみるため、水浴の直前には男性は髭を剃るべからず

 さて、死海まで来て湖に入らない手はない。どんなカナヅチでも否応なしに浮いてしまう奇跡を体験しよう。

 いや、浮く、などという甘ったるい表現では正しくない。下から強い力でぐいぐいと押し上げられる。身体における喫水線が普通の海の場合よりだいぶ下にある。そんな感覚。

 その塩分濃度は約30パーセント。海水が約3.5パーセントだから、相当に濃い。湖水を舌にのせて味わえば、辛いというより、むしろ苦い。

 不思議な湖水に身をゆだねつつ、悠久の歴史に思いを馳せよう。

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photo:Atsushi Hashimoto
text:CREA Traveller
coordination:Naoko Kimura