川上さんと、親友で「先輩ママ」でもあるヘアメイクのミガンさん(36歳)との爆笑対談、後編は産後うつから、夫の育児への協力……というホットなテーマにまで踏み込みます。

» 芥川賞作家・川上未映子さんと「ママ友」の爆笑対談(前編)

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「産後うつ」と仕事復帰

未映子 ところで、ミガンは、「産後うつ」とかなかった?

ミガン 2人目を生んだとき、上の子の世話を義理の両親にまかせっぱなしにしていたら、上の子がどんどんそっちになついてしまって、それがすごく悲しくって。子どもからみて母親が一番ってどこかで確信していたのかも。なのに、あれ? 違うのかな、と。ものすごい疎外感で、「……わたし、なんのために頑張ってるんやろう。仕事しながら子育てして、子どもにそっぽむかれたら……」って、ワーンとなったり。

未映子 それは、しんどいよね。それまで、「いかなる場合であれ、働くことは善である」って感じでやってきたのに、よりどころにしていたものが折れた感じかなあ。

ミガン 折れかけたけど、今はすっかり回復して(笑)。「おじいさん、おばあさん、ありがとう」って思ってる。

未映子 いっそ仕事を辞めて育児に専念しようとは思わなかった?

ミガン 一瞬よぎったけど、その選択肢はなかったなあ。ラッキーなことに保育園に入れて、子どももとても楽しそうに通っているし、家でもおばあちゃん、おじいちゃんが、わたしたちとは違う世代の遊びを孫としてくれているのも、子どもにとってかえっていいんじゃないかなあ、と思うようになっていったし。わたしがつい面倒くさくなってDVD見せちゃうところを、一日中絵本を読んでくれたり、木のおもちゃで遊んでくれたりするし、それはやっぱりすごくありがたいよ。

未映子 わたしたちって体力的に、子どもと2時間とか3時間とか、ずっと高いテンションで遊ぶのって、本音をいえばちょっと無理なところがあるやん? でもおばあちゃんらって、平気で5時間ぐらい遊んでくれたりする。「責任がない」とか「たまに会うから」ってこともあるとは思うけど、でもテンションがいつも高くて、すごいなって思ってしまう。もちろん人によるとは思うけど。

ミガン でも、世の中の母親で、子育てが楽しくてしょうがなくて、他人に預けるなんて信じられないっていう人、たまにやけど、いるでしょう? そういう人って、疲労をどんなふうに対処してるのやろう。

未映子 いくらかわいくても、疲労は疲労やし……。

ミガン そうよ……ポリシーが疲労を上回ってて、やっていけてるって感じなのかな。少なくともまわりにはいないし、自分はそういう道を選ばなかったから、感覚がまったくわからない。

未映子 どうなんやろう。専業主婦の子育てって、一日中子どもがべったりで、すごく大変っていうこちらがわの勝手なイメージがあるけど……でもそう言うと、心外やっていう人もいらっしゃると思うし……。でもさ、専業でも兼業でも、「自分が倒れたら、子どもがどうにもならない……」みたいな状態は、どっちにしても、しんどいはず。息抜きっていうか、いざというとき助けてくれる人がいるかどうかで日常の心持ちってぜんぜん違うから。そこも大きいよね。

ミガン 未映子の場合は、会社勤めと違って小説家って仕事で、ファンの人も待ってくれるやろうから、しばらく仕事をセーブして、落ち着いてから本格的に復帰する、って考えかたはなかったの?

未映子 そうできたらよかったけれど、それがどうしてもできなかった。小説って一日書かなかったら、それだけ下手になる仕事ってこともあって。でも確実に無茶なことではあって、寿命は縮んだような気がしています。でも、一種のナルシシズムでもあったと思うなあ。ぜんぶを乗り越えてこそ、みたいな。あと、親戚も親も近くにいないから自分たちでやるしかないって、必要以上に気負ってたってのもあると思う。

ミガン じゃあ、あべちゃん(川上さんの夫の阿部和重さん)が「専業主夫」になるという考えは?

未映子 うーん。でも専業主婦の仕事ってすさまじいよ。誰もができることじゃないと思う。たとえば、毎日の料理って、ほかのどれともちがう家事。それに、自分が快適に働きたいがために誰かの社会性を遮断するっていうのは、それはそれでやっぱりマッチョな考えでもあるし。

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2014.07.22(火)