芥川賞作家・川上未映子さんの新刊『きみは赤ちゃん』(文藝春秋刊)は、自らの体験を活写し、そこから得た知識、教訓、反省、そしてノウハウが満載の育児エッセイです。

 CREA WEBでは、この刊行を記念して、読者のみなさんから、出産・育児に関するお悩みを大募集。数多くの投稿が寄せられました。

 その中から、今回は3人の方の質問に対し、川上さん自ら真摯にお答えします!

母性や父性はいったん忘れちゃっていい

Q. 母性スイッチはどこにありますか?

 現在、35歳で妊娠7カ月ですがまだ母性が湧きません(目覚めません)。

 子供ができ生む選択をしてますが、生まない選択をしなかっただけな気がします。検診で、お腹の様子を見ても「ふーん」という感じ。

 世間は父性より母性に重きをおいています。それ自体、理解できないのですが、妊娠してからも理解できないのは私に母性が備わっていないからではないでしょうか。

 母性スイッチはどこにありますか。(みゆき/35歳・派遣社員)

A. 子育てで大事なのは、先入観から自由になること

 母性や父性というのは、ある「傾向」──たとえば前者なら「受容・肯定・慈愛」などなど、後者なら「規律・厳しさ・社会性」などなどを、便宜的に示しているだけなので、いったん忘れちゃっていいと思います。

 そして、世間一般で言われている「母性」のようなものをあなた自身に感じられなくても、べつにいいと思います。あなたと、生まれてくるお子さんとの関係は、空前絶後のものなので、つまり、必要であれば、あなたの母性はあなたが勝手に定義すればいいと思います。なんというか、「『検診で、お腹の様子を見ても「ふーん」という感じ』もひっくるめて、今のわたし」で、問題ないように思います。

 ただ、世間は、妊娠中も生んでからも「母性」のイメージで「母親はかくあるべし」を押し付けてきます。「母親的役割」など、これっぽっちも考えていなかったわたしでさえ、「つ、つらい……」と落ちこむほどで、それよりも、いつのまにか自分のなかにも「母親ってこうだよね」みたいな先入観が刷り込まれていたことに驚きました。

 子育ては、いかにそこから自由になって、子育ての喜びや不安を自分で決めることができるか、というのも大事だと思います(難しいですけれど)。母性が備わってないから……なんて考えずに、「自分が基準!」で、これからさきの、なにか想像すると楽しくなるような予定とか具体的なことを考えて過ごされるのもいいですよね。どうか、無事にご出産されますように。お祈りしています。

» 『きみは赤ちゃん』の内容を立ち読みする(本の話WEBへリンク)

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2014.08.14(木)